天草-野母崎
- 2019.06.18
- 研究航海
昨日に続いて好天に恵まれ、今後数日は天気は安定しそうです。
有明海を抜けた外洋への出口にある野母崎に向けて出航します。
クルーが昨夜の夜釣りで掛けた大型のスズキを絞めてから出発しました。
第一レグにも同乗したメンバー三人に加えて、第二レグは新メンバー3名を加え総勢6名になりました。
出航早々にハプニングに見舞われます。
マリーナからの出艇の際に、船長が曲がりきれずに他のクルーザーのアンカーに当たって壊してしまい、こちらも左舷のポールが内側に折れ曲がってしまいました。
海の事故は一つ一つの物損金額が大きいので、保険制度はかなり重要になります。
メインセイルを上げようとカバーを外すと、巣作りのためか隠れていたアシナガバチ3匹が出現。魚掬い用の網で叩いて退散してもらいました。
更に、マストの溝が潮で滑りにくくなっており、潤滑油をスプレーしながらのセイルアップ。
幸い天候は穏やかで、北風に対するアビームと有明海から流れ出る連れ潮に乗って時速10km程度の機帆走で西南西に向かいます。
有明海のように内部が深い奥まった地形の湾では、出口付近で潮が幾重にも複雑にぶつかり、様々な潮目を形成しています。
不知火湾でもそうでしたが、このような閉鎖系に近い環境では海水の出入りが制限され、海は陸地からの流出などの影響をもろに受けやすいことが見て取れます。
近くにはそのようにして生じた公害の例として、熊本水俣病で有名な水俣市があります。
地元の水産試験場で働く人の話では、今でも熊本で水俣病について触れるのは一種のタブーで、被害者に対して一定の経済的な補償はなされたものの、環境中に放出された水銀などについては部分的に汚染魚の捕獲や浚渫・埋め立てが行われた以外は、湾の中を拡散して薄まるのに任せただけのようです。
空には、梅雨時の気象の不安定性を示すような多様な雲。
新しく参加したクルーも、舵を握り操船を経験します。
野母崎を回り込むと、かつて海底炭鉱として栄え、近年の世界遺産登録で一躍有名になった軍艦島が見えてきました。
軍艦島にはツアーでないと上陸はできませんが、周囲を一周しながら間近でその廃墟の様子、コンクリートの亀裂、それらに付着したイガイやキヅタなどが観察できました。トカラ列島で見たものとはちょっと違った色合いのトビウオも飛んでいました。
野母崎の奥まった港に到着。目の前が温泉です。
着岸早々に、付近の海岸の散策。
味噌汁に入れると香り高く美味しいボタンボウフウ。
岩場には伊勢の宮川河口でも観察したアナアオサ。
磯釣りでカサゴをゲット。
クルーがクロナマコを拾ってくれたので、船に戻って捌きます。(写真をクリックして動画再生可能)
そこへ、急に「味の伝道師」を名乗る物売りがやって来ました。
笑顔で対応する女性クルー。
しかし、相手が悪かったようです。我々がここ長崎でナマコの地産地消に血眼になっている真っ最中に、北海道産のスイーツを勧めてきました。
青年は結局ナマコの解体を見て帰りました。
夕食は天草で豪華クルーザーからいただいたイタリアワイン付きのフルコースです。
朝とれたてのスズキの刺身に、
同スズキのポワレ。
釣ったカサゴも塩焼きにしていただきました。
採集した磯物とボタンボウフウの味噌汁は香りが高く滋養が濃く、疲れが吹き飛びます。
デザートはクロナマコの刺身、有機レモン添え。
沖縄産パイナップルの差し入れもいただきました。
温泉に浸かって、明日の移動に備えます。
今回第二レグでは、第一レグでの知見も踏まえて衣類の素材をいくつか試しています。
特に注目したのがマイクロプラスチックを排出しない竹繊維。
このパンツは竹レーヨン70%、コットン30%でできています。
店の人は繊維ごとの着心地の違いなどをいろいろ解説してくれるのですが、航海調査のような環境で実際に着用してみると、それらの差異は「ほとんど変わらない」もしくは「サバイバル性に直接影響しない」程度に感じられました。
むしろ、ポリエステルなどの繊維を洗濯する際に生じるマイクロプラスチックを削減できるという点で、合成繊維でない天然繊維に環境配慮上の利点があるように思います。
しかし、それらの繊維がどのように栽培・加工・流通しているかも問題です。繊維に加工する過程で有害な薬品を使い環境中に排出していないか?そもそも原材料の栽培過程で生物多様性を失わせたり農地からの肥料・農薬など流出が起きていないか?経済格差を利用・助長するような取引(いわゆるフェアトレードを損なう生産体制)ではないか?
今回の衣類を購入した店では、そのような総合的な環境負荷に対する情報はほとんど得られませんでした。
商品には竹レーヨン70%と表示があるのに、「うちは竹繊維を100%使用しています」という明らかに間違ったセールストークも見受けられました。
一消費者にとって現行のBusiness as usualの延長での環境配慮と言われる活動は、SDGsなどは掲げつつもまだそのような包括的な取り組みが前面に出てくるほどのインセンティブには至っていないと感じられました。
野母町では今宵は「いさき祭り」の日です。威勢の良い踊りや太鼓が聞こえてきました。