ブラジル視察(2) São Paolo

ブラジル視察(2) São Paolo

Brasiliaの次は、南半球最大の都市と言われる São Paolo に向かいました。

初めは現地の日系人の方々が作ったサンタクルス病院を見に行きました。

1900年代以降ブラジルに農業従事者として移民してきた日本人は、当初言われていた待遇とは大きく異なる劣悪な環境に放り込まれ、それでも諦めずに働きましたが、賃金が少なすぎて逃げ出さざるを得ない場合も多かったようです。そんな困窮した中でも、サンタクルス病院の建設は多くの日本人がなけなしのお金を出し合うことで実現したそうです。社会的共通資本としての病院の重要さが伺える写真集が残されていました。

他にも多くの病院があり、ユダヤ系のアインシュタイン病院などは多額の寄付によって最高レベルの医療設備が整った巨大な病院で、南米中から患者を受け入れているそうです。
アインシュタイン病院の横には医科大学があり、多くの医者の卵を輩出しています。

アインシュタイン病院から医科大学に渡る橋。建物が多くの緑に包まれています。

そして室内の巨大な空間にはなんとアマゾンの植生が移植されていました。São Paolo 自体は亜熱帯気候ですから、このような生態系は屋外では存続できず、屋内に作られた拡張生態系の例と見ることができます。

熱帯雨林の見える素晴らしい環境の中で、医学生たちが勉強をしています。

夜はブラジルの食材を使った和食である「日系料理」をつくる活動をしている、日系ブラジル人の白石テルマさんの夕食をいただきました。
ホタテとププニャ(ヤシの芽)のカルパッチョ。

マンジュビニャ(川魚)とイカの天ぷら 姫レモン添え

カウデイラダ(海の幸)、ツクピー(アマゾンの天然キャッサバの根から抽出されたソース)とジャンブ(アマゾンのハーブ)のブラジル風お鍋

和食をベースに現地の食材を見事に調和させており、まさに和魂伯材といった趣のある創作料理を美味しくいただきました。

São Paolo 大学(USP)でも、社会的共通資本に関するセミナーを行いました。
ブラジル日報の報道記事はこちら。
セミナーの録画は、大学のYoutubeから見ることができます。


São Paolo の街は、Brasiliaとは打って変わって人が多く、かなり雑然としており、グラフィティーや落書きも目立ちます。

賑やかなフェリア。こういう場所は安全なようです。

しかし夜になると打って変わって危険度は増し、繁華街のすぐ横にも大変危険な場所があるので要注意です。

みざる・きかざる・いわざるのブラジル版グラフィティ。

賑やかな場所にあるInstituto Chão。アグロフォレストリーなどの小規模農家から少量多品目の産物を集めて売っている協同組合です。最初にレジに並ぶと、この組合の仕組みを説明され、商品代(なんと原価で販売!)に加えて30%の運営費を寄付するかどうか聞かれます。これは払わなくても良いのですが、多くの人が寄付もしており、80年も続いている民主的な組織です。私有財と公共財が入り混じった性質の社会的共通資本の一例と見ることもでき、小規模農家と流通をつなげる上で意義深い仕組みであると思います。関係者の話では、「商品に利益率を乗せて販売するより、完全に原価で販売し、この仕組みに価値を感じている人から寄付を(上限額なしで)募る方が、きちんと資本が集まる」というのが印象的でした。

韓国系移民の子孫だという方が、アマゾンの植物を使ったコスメティックスを説明販売していました。多民族と豊かな自然の産物が自然に混ざり合っている社会の在り方がとても面白いです。

今回発見だったのは、ブラジル国内では小規模なアグロフォレストリーなど地産地消的な取り組みに極めて関心が高いということです。
考えてみれば、大規模なモノカルチャーで栽培している少数品目の作物は、ほとんど輸出されてしまいます。実際に国内で食べるものというのは、別に小規模で多品目を作ることが重要だという話をいろいろな人から聞かされました。つまりここまで輸出する農業が強いと、経済としての食糧産業(food industry)と、自給をカバーする食料主権(food sovereignty)は別立てで考えなければならなくなるようです。日本では工業と農業が別であるように、ブラジルでは大規模モノカルチャーと小規模食料生産が別個に存在し、それぞれがカバーしている領域が違うように見受けられます。
輸出作物と自分達の食べるものが分かれているせいか、ブラジルで手に入る食材はどれも新鮮で質が高く感じられます。

São Paolo のストリートにあるレストランはとにかく安くて美味い。そして多い。
どうやってもご飯がこぼれてしまうピカーニャの定食。

代表的な家庭料理、feijão(フェイジャオン)。本当に小さいサイズのを頼むと念を押しても巨大なボウルで出てくるので、毎回満腹以上になります。

中の展示がとても刺激的だったサンパウロ美術館(MASP:Museu de Arte de São Paulo)。同じフルーツでも日本やヨーロッパとブラジルで異なるように、アートの捉え方もブラジル独特の野生味と心性があります。

MASPとパウリスタ大通りを挟んで向かい側に広がるのはTrianon公園。
この公園は多層に樹冠を持つ樹々で覆われ、とても清々しく、各所のベンチでは人々が愛を語らい、歩いていてとても居心地の良い公園でした。
植えられている木や草の多様性がとても多く、計画的に導入管理されているなら、都市部の拡張生態系の例と言えるかもしれません。







公園の外では本格的なフルーツジュースを売っていました。

São Paolo は喧騒と熱気が絶えない楽しい街でしたが、場所によっては治安が悪い場所も多く、それが高級レストランなどと混在していたりして、さながらお湯と氷をごちゃ混ぜにしたような混沌をはらんでいる場所でした。
そんな中でも、ブラジル人の友人たちがこぞって勧めてくれた都市部の公園は、おしなべて多様性が高く居心地の良い場所も多く、これがブラジルの気候や在来植生によるものなのか、公園建設にかける熱意と管理方法の賜物であるのか、社会的共通資本でもある都市部のグリーンインフラの成り立ちとして興味が湧きました。