サハラの呼び声 ーアフリカ・サブサハラにおける協生農法の挑戦ー

サハラの呼び声: 8. サハラの森へ(CARFS設立)

アフリカ協生農法研究教育機関(CARFS)。ブルキナファソを中心とし、サブサハラ諸国に協生農法のトレーニング・普及活動を展開し、将来的に大学レベルの学位取得を含む研究教育機関として、3つの省庁とワガドゥグ大学、そしてUNESCOの支援を受けて発足した組織だ。 そこにはこれまで関わった人々の幾世代にもわたる祈りが流入していた。 砂漠化は貧困を呼び、貧困は争いを生み、出口のない苦の連鎖が人々を縛ってき […]

サハラの呼び声: 7. 新体制を口説け

ファダを去る日が来た。 いつも日陰に座っている初老の門番が優しく私の手に触れ、目を細めて言った。 「神があなたに、より賢さを与えますよう」 静かな敬意だった。素っ気なさすぎるほどの別れでも、人より自然が常に大きいこの地では、それが風景に溶け合い、いつまでも変わらぬもののように感じられた。 「私は神より人の意志を信じている。神は自ら救うものを救いたもう、だ」 ゆっくりと巻き上がる砂塵に霞む村を振り返 […]

サハラの呼び声: 6. 雨期を待ちながら(第二回アフリカシンポジウム)

2017年になると、国政が安定化する傾向に入り、現地の治安状況は改善していた。 5月、私たちは再びファダを目指して車を走らせていた。 相変わらずの悪路に空調系統が故障し、車内は釜戸の中にいるような暑さだった。今が一番乾季の残暑が厳しい。 5月に始まるはずの雨季も、今年は大分遅くにずれ込んで、まだ間欠的な雨しか降っていなかった。 熱を孕んだ風は重い。 数日間40度を超える酷暑が続いた後、空は砂塵色に […]

サハラの呼び声: 5. 命の天秤

「アンドレ。お前は死が怖くないのか。いつそんなつまらん悪党どもに殺されるかもしれないのに、それでも護衛もなしに行くのか」 「マサ、俺は神を信じている。神に全てを委ねて楽しく行くだけだ。」 「そんな言葉は聞きたくない。だが絶対に死ぬな。お前が死んだらこのプロジェクトは終わる。何としてでも後に続く人々に道を残せ」 電話越しに、私はアンドレと怒鳴りあっていた。 危険を顧みずにブルキナファソ東部の実験農園 […]

サハラの呼び声: 4. 第一回アフリカシンポジウム

「バスターレ、マサターレ。ハハーッッ」 バスタレは会うたびに自分の名前と私の名前をかけて意味不明のジョークを飛ばした。まるで高校生の飲み会だ。 しかし、ちゃらんぽらんなようでいて幾つものバー(Maquis)を経営し、女の子たちを仕切り、商売の羽振りは良さそうだった。ここでは陽気さは美徳の一種だ。 「マサターレ、俺とお前は兄弟だ。この街で飲んだやつはみんな兄弟になる決まりなんだ」 やや強引な兄弟宣 […]

サハラの呼び声: 3. ファダへ

最初の滞在以降、ブルキナファソでは新たにクーデターが勃発し、度重なる反乱部隊と政府軍の衝突で、首都は騒然となっていた。 私が滞在したすぐそばのホテルでは大規模なテロ事件が発生し、銃撃戦の末30人の滞在客が犠牲になった。 政府筋の情報は軒並み危険信号を並べ、現地の状況は国際社会から閉ざされていた。 しかし、私の手元にはアンドレやアランからの情報が届いていた。民衆が何を考え、何に怒り、何を守る戦いであ […]

サハラの呼び声: 2. 何が起きている?

日本に帰って数週間すると、参加者の一人からメールが届いた。 「協生農法に興味がある。是非、うちの団体で実験してみたい。」 後に共にサブサハラに協生農法研究所を設立することになるアンドレ・ティンダノだ。 先ず実験地の条件を聞いた。そして現地の気候データを調べ上げた。植生に関して意見交換しつつ、幾つかの具体的なアドバイスをメールで数週間にわたって指示した。 それからしばらく彼からの連絡が途絶えた。 数 […]

サハラの呼び声: 1. 砂漠の祈り

「サハラの呼び声」は、2017年7月より2018年4月まで、SonyCSLのメールマガジン「T-pop News」に当法人代表の 舩橋真俊 が連載したノンフィクション小説です。 五井平和財団における講演会と連動して、協生農法のアフリカにおける実践の始まりを伝えるコンテンツとして、第一部を公開します。 ——————— […]