サハラの呼び声: 6. 雨期を待ちながら(第二回アフリカシンポジウム)

サハラの呼び声: 6. 雨期を待ちながら(第二回アフリカシンポジウム)

2017年になると、国政が安定化する傾向に入り、現地の治安状況は改善していた。
5月、私たちは再びファダを目指して車を走らせていた。
相変わらずの悪路に空調系統が故障し、車内は釜戸の中にいるような暑さだった。今が一番乾季の残暑が厳しい。
5月に始まるはずの雨季も、今年は大分遅くにずれ込んで、まだ間欠的な雨しか降っていなかった。

熱を孕んだ風は重い。
数日間40度を超える酷暑が続いた後、空は砂塵色に曇り、夕方にあちこちから風が吹く。
風は夜半に強さを増し、やがて明け方の豪雨に変わる。トタンを敷いただけの薄い天井から、時に水滴が寝ている顔に滴る。
突然の浸水に木々は一旦萎むように見えるが、やがて日中の強い日差しを浴びて幾らかの水を吸い、再び大地は乾燥する。
雨の後は空を飛ぶ鳥が高い。
すべてが耐えているこの土地で、人々の肌だけが黒く眩しい。

アンドレが無理を通してタポアの農園に復帰したおかげで、我々はファダに6ヘクタールもの農園を買うだけの資金を手に入れることができた。第二回のシンポジウムを開催するとともに、アクセスが確保できるようになったファダに新たな実験農園を立ち上げる計画だ。
前日に炎天下の中で延々と説明した甲斐あって、シンポジウムには、地主である村長夫妻と共に現地の農民も参加してくれた。
この村長、現地語しか話せないが、人の顔と特性を一瞬で見抜いて覚える力は抜群だ。いつもボロボロのスポーツカーで砂埃を上げて走り回り、初めて会った時は我々の車に文字通り衝突してきた。土地を買いにきたということで最初は外国人の私を警戒していたが、バーで習い覚えた現地語混じりで説明し、敬意の証として彼の持つ先祖代々の短刀の刃に自分の掌を当てて見せることで、ようやく彼の信頼を勝ち得るに至った。尤も、事前にフランス語のできる奥さんに丁寧に話を通しておいたことが効いていることは想像に難くない。ここでは全てが裸の人間関係によって動く。

新たに取得したファダ近郊の砂漠化した農地。

植生が再生せず有機物が全くない、鉱物だけの綺麗な砂と化している。

村民への説明

村長への直談判

有用植物のフィールド調査

交渉成立

一回目に比べると、通信ネットワークのインフラもだいぶ向上してきた。
現地の電話会社と何度も交渉し、回線のテストと同時にサーバーの試験を繰り返した。何しろ、インターネットの動作原理を理解していない人が現地の責任者なのだから、回線の仕様を問い詰めて後はこちらで全て設定しなければならない。
常に給水しなければ倒れるような高温環境下で、度重なる停電にも耐えサーバーだけは快調に動作を続けていた。
日本からの遠隔ログインにも成功し、シンポジウムの中継も突貫工事の回線で無事終えることができた。
ワガドゥグ大学から若手の教授を迎えて、シンポジウムはより実質的な研究教育の体制構築に動き始めていた。

第二回シンポジウムの様子。

協生農法について実地に説明。

すでに若い世代から、年間を通じた協生農法のトレーニングと学位取得の希望者が出始めている。
これまで描いてきた構想に、人々が反応し始めてきたのだ。
新聞やテレビのインタビューを終え、日中の酷暑を避けて日陰で休む間も、我々は議論を続けた。
気づかないうちに随分体調を崩した。未発達な衛生状況に加えて、この暑さだ。そんな中で所構わず集中して働き続ければ、熱中症から神経系に異常を来たす。
食べ物といえば肉にビールだが、それに唐辛子をはじめとする香辛料をふりかける。暑い中では辛いものが欲しくなるが、その刺激に弱った胃腸が耐えられない。
可能な限りのワクチンで免疫獲得してきたとはいえ、砂塵に乗って吹き付ける現地の細菌や暑さは確実に基礎体力を蝕んでいく。
消耗し思い通りに動かない体を引きずりつつ、私は時を見定めていた。
砂漠に隠れる強靭な爬虫類のように、各々が黒い肢体の裡に熱い思いをとどめていた。
指や唇に止まるハエを時折払いながら、乾いた肉を少しずつ分け合ってつつき合い、それぞれが行く末をじっと睨んだ。

材料は揃った。今こそ新体制の力が必要になる。
アンドレと出した結論は、再び首都に向かっていた。

ー続くー