サハラの呼び声: 7. 新体制を口説け

サハラの呼び声: 7. 新体制を口説け

ファダを去る日が来た。
いつも日陰に座っている初老の門番が優しく私の手に触れ、目を細めて言った。
「神があなたに、より賢さを与えますよう」
静かな敬意だった。素っ気なさすぎるほどの別れでも、人より自然が常に大きいこの地では、それが風景に溶け合い、いつまでも変わらぬもののように感じられた。

「私は神より人の意志を信じている。神は自ら救うものを救いたもう、だ」
ゆっくりと巻き上がる砂塵に霞む村を振り返りながら、私は誰に言うともなく呟いていた。

それにしても雨季の到来が遅い。悪路と空調の故障で、帰路には8時間近くを要した。
交通事故や救急車の故障も、この街道では大きなリスクの一つだ。
狭い車内で押しつぶされ合いながら、皆じっと耐えていた。汗が幾重にも重なっていく。
首都のワガドゥグに着く頃、気温は45度に達していた。
熱い砂塵の中、隠れるように文化センターの宿舎に入り込み、拠点を構えた。門番もいるし、若い学生たちが頻繁に出入りして路上演劇(Théatre de rue)の練習をしている。適度な人の目に勝る安全はない。

乾季には、日中の気温は40度を超える。

これから省庁周りが始まる。農業水利省、環境省、高等教育省… いずれも新政権発足から急速に再編成が進む真っ最中で、どこも人でごった返していた。
すでに我々の代表のロンポが先行して根回しを始めていた。
この男、田舎のNGOの長でありながら省庁関係にめっぽう顔が利き、特に集会演説で煽る力が凄い。大臣クラス相手の会合でもその弁論術を駆使して即座に我々の活動を正当化する術を心得ていた。早口だがとても愛嬌のある男である。
我々のシンポジウムにも時々乱入し、質問時間のはずが延々とアジる演説を始めて、それがまた見事で参加者の喝采を買っていた。

第一回シンポジウムの後、ロンポはブルキナファソの新憲法起草委員会に我々の成果を報告してくれていた。彼が中心となった活動は、新憲法に「国民に持続可能な農業を保証する」条項を設けることに成功し、ブルキナファソは世界で初めて憲法で農業の持続可能性を保証する国に生まれ変わろうとしていた。
これまでの環境権や自然生態系の保全を超えて、人間が活用する中で変化していく過程を含みながらも、総体として生物多様性が向上し持続可能性を維持する仕組みが必要であることの前提が、一国の憲法に明記されるわけだ。
その中で協生農法が中心的な役割を果たしうることは、過去二回のシンポジウムで既に明確なエビデンスが得られていた。

皆興奮して怒鳴りあっていた。
狡猾さと大胆さを兼ね備えたアンドレに対して、ロンポは潔癖で形式的すぎる傾向があった。
省庁や大学を巡って支援を取り付ける交渉を繰り返しながら、我々は何度となく認識のすれ違いを確認し、衝突しながら一つのプランをまとめあげていた。

AFIDRAの長、ロンポと共に。彼の尽力で、協生農法の成果が国会で報告され、ブルキナファソの新憲法には「持続可能な農業へアクセスする権利」を国民へと保証する条項が盛り込まれた。

ー続くー