サハラの呼び声: 4. 第一回アフリカシンポジウム

サハラの呼び声: 4. 第一回アフリカシンポジウム

「バスターレ、マサターレ。ハハーッッ」
バスタレは会うたびに自分の名前と私の名前をかけて意味不明のジョークを飛ばした。まるで高校生の飲み会だ。
しかし、ちゃらんぽらんなようでいて幾つものバー(Maquis)を経営し、女の子たちを仕切り、商売の羽振りは良さそうだった。ここでは陽気さは美徳の一種だ。
「マサターレ、俺とお前は兄弟だ。この街で飲んだやつはみんな兄弟になる決まりなんだ」
やや強引な兄弟宣言も、家族や社会という共同体のあり方が、欧米とアフリカでは根本的に異なっていることを匂わせていた。ヨーロッパに移民してくるアフリカの「兄弟」たちは、欧米の観点からは家族でなくても、彼らにとっては代え難い絆なのだ。
それはアジア人にとってはどことなく懐かしい、近代化以前の農村共同体のあり方が残留しているように感じられた。

バーの前の路上で行ったシンポジウムの準備

ファダでの準備は忙しかった。
始めてのアフリカシンポジウム開催に向けて、昼も夜もなく働いた。
アラン・グバも多忙な中駆けつけてくれた。敬虔なキリスト教徒である彼も、危険を顧みずにサブサハラ北部に頻繁に技術指導に出かけていた。彼とはいつも話が合う。そして世界をより善くしようという意思が大きく優しい身体から滲み出ていて、自分も何でもできそうな気になる。本当に清々しい男だ。
こんな人間が、アフリカには何人も眠っている。彼らのいずれも、私がヨーロッパの荒んだ街角で見たアフリカ人たちとは大分異なっているように見えた。
見かけの西欧化を取るか、その利点を理解しつつも独自のルーツを育てるか。
グローバリズムに直面して抑圧された先進国の移民に対して、本国の知識人たちが放つ輝きは独特のものがある。アジアに限らず、アフリカにも多様な原石が眠っている。
そして、我々はそのいずれにも属さない新しい試みを始めようとしていた。アフリカの伝統文化も西欧文明もなし得なかった、人間と自然の対立を超えるという挑戦を。

厳戒態勢下でのシンポジウム開催。

サブサハラ諸国より、60人を超える参加者が集まった。

シンポジウムで講演する左より:アラン・グバ、舩橋、アンドレ・ティンダノ

シンポジウムでは8時間しゃべり続けた。
最初に来た時の体調を考えると、何時間話そうが天国みたいなものだった。
アフリカ特有の人々のリズムに、スケジュールは大幅に変更を余儀なくされ、ネット中継の回線もインフラ不足によりズタズタだった。
しかし、我々は参加者と一つになって、第一回目のシンポジウムを完遂し、協生農法の考え方と乾燥地帯での実験結果を世界に配信することができた。
最初の訪問から1年半。再び、アフリカの地に種は蒔かれた。次はどんな芽がでるのだろうか。

シンポジウムの打ち上げ後、束の間の散策に出た景色は朧げに輝いていた。
ホテルの前には乾いた道にロバの死骸が横たわり、ハエがたかっていた。腹部にはガスが溜まり、艶やかに膨らんでいる。
何度目かの往来でロバは消え、子供達と豚がゴミの山を駆け回っていた。
警備の兵士達が物憂げに佇む中を、私たちは讃えあい、よろめきながら夕日に照らされ歩いていた。
生と死が頻繁に往来するこの地でこそ、刹那の安らぎは限りなく優しく感じられた。

空港では小雨が降っていた。もうすぐ本格的な乾季が始まる。
厳しい状況は、これからも続くだろう。
それでも、我々は一緒に進んでいくのだろう。
「マサ、俺たちは女を探し(コル)に行く。お前が飛び立つ(デ・コル)間にな。」
抱き合った肉塊が重く愛しく感じられた。熱く滴る涙に彼らの寂しそうな顔が滲んだ。綺麗だった。

空港にて。

ー続くー

追記
本シンポジウムにおいて、以下のファダングルマ宣言が発行され、サブサハラにおける協生農法の普及・研究活動の官民一体となった取り組みを始動する足がかりとなった。

ーーーファダングルマ宣言 2016ーーー

我々は、第一回アフリカ協生農法会議において、実行委員会の発起により参加者たちの総意として、将来の協生農法の発展と協力関係に関する合意をここに宣言します。

協生農法の定義と規則に従い、我々はアフリカ諸国において協生農法の活用、応用、発展を遂行します。
常識に囚われることなく、我々は自らの力で困難を乗り越え、協生農法の基盤となるオープンシステム・複雑系の科学において理論的に可能なことの実現を追求します。

我々は知性を手放さず、例え1%の可能性であっても、人間と自然の共存を実現する新たな方法をを開拓する努力を続けます。
この視点のもと、我々は伝統を刷新し、慣行の方法論と相克が生じても、それを建設的に解決し、何が社会ー生態系全体の長期の存続において重要かを判断します。

我々はそれぞれの活動場所において各個に自主的・自律的に行動し、自活に基づいた真の連帯を形成します。

我々は生態系が存続する権利を、人類の生存権を支える根本的な権利として支持します。
我々は協生農法を活用して生態系を拡張し、自然状態を超えて生物多様性と生態系機能を増進することで、我々の生活に必要な生態系サービスを持続可能に取り出します。
この原則は我々の活動において普遍的であり、人口増加や気候変動に面しても変わることがありません。

我々は協生農法を武器として砂漠化と戦い、健全な食べ物を共通言語として、あらゆる暴力に平和をもたらします。

我々は協生農法の実践において男女平等に参画します。

我々は協生農法の発展、情報の共有と拡散、教育に関してオープンソース著作権を遵守し、全ての善良な意思を持つ人々に開かれた市民科学を目指します。

以上に基づき、我々は西暦2016年をアフリカにおける協生農法元年と制定し、実践、組織化、研究、制度化に伴う協調と発展のための多様な段階における諸計画を始動し、(ブルキナファソの国名の由来でもある)高潔な人々の最初の一歩として、この美しい地球で共に生きていくことを誓います。

実行委員会
舩橋 真俊 Sony CSL
ティンダノ アンドレ AFIDRA

協生農法 ブルキナファソでの実践とファダングルマ宣言2016 動画