硫黄島(3)
- 2018.07.31
- 研究航海
台風12号が通過したと思ったら戻ってきました。
なんと我々のいる硫黄島の周囲をぐるりと反時計回りに一周して行くようです。
(左から右へ、時系列順に台風12号の進路予想。)
島の人に聞いても過去にこんな台風の進路は見たことがないそうです。
私はすぐに過去のある台風に思い当たりました。
昭和51年に諏訪之瀬島を一周して壊滅的被害を与えた台風19号です。
野人・大塚さんのブログの「連載 東シナ海流」に当時の様子が書かれています。
気象学的には、偏西風の上に乗っている寒気が下側に切り離されて寒冷渦(寒冷低気圧)となり、それに沿って台風が引きつけられているので反時計回りで一周する進路をとると説明されているようです。
しかし、なぜその位置に寒冷渦ができるのか、なぜその場所を中心に台風が回っていくのかは、予報の不確定性もあり特に議論されていません。
昭和51年の台風19号と今回の台風12号で共通している点は、穿った見方をすれば「活火山を中心に回っている」ことです。
諏訪之瀬島には、当時も今も変わらず噴煙を上げる御岳がありますし、現在我々のいる硫黄島は世界最大規模の鬼界カルデラの外輪山で、海底には巨大な溶岩ドームが成長しつつあります。
果たして、火山の持つ地磁気が気象に影響を与えうるのか?
単なる偶然かもしれないですが、予報進路は見事に鬼界カルデラの周縁を回っていきます。
まるで、カップに入りかけたゴルフボールが勢い余って一周し抜けて行くように。台風を引きつける「見えないカップ」が形成されているようです。
そもそも、なぜ火山の巣窟である日本列島が、台風銀座と言われるほど台風の往来が激しいのでしょう。
大気の流れが影響しているにしても、なぜこの場所にそのような気流が生じているのでしょう。
海と陸の間での水の大循環を考えると、火山活動で隆起した列島は、蒸散と降雨のサイクルを通じて大気の循環に大きな影響を与えることは予想できます。
川の流れが合わさる瀬に泡が引き寄せられるように、海の中に突き出た島々を中心に、見かけ上の吸引力が生じている可能性はあります。
特に大きな熱とチリを含み軽重様々なガスを排出する活動中の火山は、とりわけ局所的に重要な影響を与えうるかもしれません。
乾燥地帯が多い世界の亜熱帯地域の中でも、南西諸島は特に例外的に降水量が多く、極めて多彩な生物多様性を育んでいます。
火山と台風と生物多様性。これらは、地球史規模で複雑に絡み合いながら、この地の比類なき自然を作り出しているように思います。
夜間にある程度の雨が降り、風とうねりが強くなってきました。
雨もりを即座に修理する花田船長。
私は陸の拠点を確保するために陸に上がりました。
ヨットレースも終わって民宿には余裕があります。
島の民宿は、主にインフラ整備の土木工事業者の方が使っていました。
新しく家の中にネット回線を引く工事。
護岸が整備されてコンクリートで固められた川。
治水機能の一面的な向上はありますが、反面水棲生物が住処を奪われたり、地下水の流動が阻害され、自然浄化能力が下がる問題が指摘されているタイプの工事です。
夕刻にはさらに南からのうねりが強くなってきました。
うねりが強いせいか釣りもアタリがありません。
硫黄の濃い海で投げ続けたせいかルアーの金属部がボロボロになりました。
食糧は備蓄がまだまだあります。
工夫して料理しながら体を休め、台風への備えを固めます。
翌31日は、安永孝さんの案内で再び島の各地を見て回りました。
島の北東部にある坂本温泉。
カルデラ外輪山の外側斜面にあるため、長浜港のように切り立った崖ではなく、また巨大なれき石の多い場所です。
湧いているのも硫黄分を含まない熱い塩水です。
野人・大塚さんが数十匹のイセエビを担いで登った闇夜の坂道も、今では舗装されています。
竹藪の中には、今でも怨霊が出るのでしょうか。
昼間は静かな場所でした。
ヤマハリゾートがかつてホテル施設を建造した場所は、鹿児島県管轄の「冒険ランド」というキャンプ施設になっています。
稲村岳、硫黄岳、矢筈山が一望できる素晴らしい立地です。
ホテルが建っていた場所は現在では管理棟になっています。
安永孝さんが経営する会社の大名竹と椿油の加工場を見学しました。
新品の搾油設備が整っています。
硫黄島にて、椿油の搾油設備の見学。今年から始まる島おこし事業。 – Spherical Image – RICOH THETA
島中で栽培しているヤブツバキを、今年から初めてここで搾油し、化粧品などにして出荷するそうです。
最後は開発センターに戻って温泉に入り、郷土資料展示室にて鬼界カルデラの地質学的な展示を見学しました。
硫黄島の開発センター郷土資料展示室にて、鬼界カルデラのジオラマ。 – Spherical Image – RICOH THETA
台風12号は、予想通り屋久島近海で勢力を盛り返し、激しい風雨を伴って再接近してきました。
夕食時より、傘が吹っ飛びそうな風雨が吹き付けてきました。
同じ台風の暴風圏に二度入ります。