プロダクト評価:第一レグ

プロダクト評価:第一レグ

第一レグのプロダクトスポンサーより提供いただいた製品の使用報告とSUS評価です。

SUSとは、Survivability(サバイバル性)-Utility(利便性)-Sustainability(持続可能性)の略です。
それぞれの項目について、実地の活用を踏まえて以下の4段階で船橋が独自に評価します。
◎:十分な配慮がなされている
○:配慮がなされている
△:配慮が不十分
×:配慮なし

今回プロダクトを提供いただいたスポンサーのロゴは、航海中の記念撮影に使用した以下の横断幕に掲載されています。

(以下、評価順不同)

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・プロダクトスポンサー:SonyCSL
・提供プロダクト:超多様性マネージメントシステム(Megadiversity Management System, MMS)[α版]

SonyCSLにおいて、協生農法のマネージメントを雛形に、広く生態系マネージメントを支援するICTとして開発されている超多様性マネージメントシステムのα版。
UniTwin UNESCO 複雑系ディジタルキャンパスの基盤データベースのインフラとしても採用されており、将来的に世界の食糧生産の大多数を占める小ー中規模の農家や各種一次産業への展開を計画しています。
研究航海の第一レグでは、SonyCSLの開発チームのバックアップのもと、各地で500回の観測を行い、MMSの解析モジュールの一つであるグラフによる可視化を行いました。


図:第一レグ観測種(青)と相互作用する種(緑)の生態系ネットワークを可視化した例。

サバイバル性:△
南西諸島という新しい環境で新たに何かを観測した時に、MMSより期待されるフィードバックとしてそれが食用や薬用に役立つか、また危険な生物であるかなどサバイバルに直結する情報が挙げられます。しかし、現行のデータベースではそれらの情報が絶対的に不足しており、現地でのデータ蓄積や関連するデータベースとの統合なしにすぐにサバイバル性を上げるものではありませんでした。
しかしながら、自分で観測したデータから学術データベースを参照し、生態系の相互作用を介して関連する種の推定が返ってくることで、その地域にいる可能性が高い有用種や危険な種の推定を返すことはでき、今後の開発において食品安全やサバイバルなどに寄与する情報の活用範囲は広く残されています。

利便性:△
データの入力に効率的なインターフェースが未実装であり、学名の検索の支援など基礎的な機能を整備することで、より利便性が高まると考えられます。また、オンラインで様々なエキスパートのアドバイスを得られる通信機能があればより便利でしょう。
航海中に、平島の港に入港できずにバックアップスタッフから進路変更の指示が来た時も、すでにある気象データや人的な判断がMMS上に統合されていれば、より迅速な回避・進路変更の支援ができるだろうと思われます。揺れる船上ではほぼ操作不可能となるため、行動中のシーンにも対応するウェアラブルデバイスや音声入出力なども、よりリアルタイムでの利便性を高める上では有効になるでしょう。

持続可能性:△
現在のところ、携帯回線やWiFi、既存の携帯型端末(電話、タブレット、PC)などに依存する形で実装しており、ハード面での持続可能性が欠如しています。
一方で、網羅的に観測しなくても内部観測的にマネージメントモデルを洗練させていく枠組みは、レジームシフトや資源欠乏を迎える今後の世界では有効な可能性を秘めているため、今後も多様な環境における継続的な実証実験が必要でしょう。

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・プロダクトスポンサー:Sacana
・提供プロダクト:スタッフ(クルー)、各種釣り具、調理技能

サバイバル性:○
航海中はSacanaによる食糧調達が半分以上を占め、ほぼ毎日の料理のメインディッシュはSacanaによって調理され振舞われました。また、トカラ列島ではサメが多く、海中調査に出かける船橋のバックアップに、釣りをしながら陸からの目があることは安全性にとって大きく寄与します。
すでに高いサバイバルスキルを日常的に実践していながらも、その技術探求に終わりはないという意味で、○という評価にしました。

利便性:◎
Sacanaのようなスキルのある人間がクルーに加わることで、今回の航海調査の利便性は格段に上がりました。各地での狩猟採集のセッティングや、捕獲した魚介類の同定、調理やヨットのメンテ作業、果ては三線の演奏にまで万能な活躍を見せてくれました。
どのような科学技術よりも根本に、生身の人間の技能というものは、生活の利便性の向上のために高める価値があるものであることが実感されました。

持続可能性:△
Sacana提唱のルアーはシングルフックであり、より魚や環境に負荷の少ないものとなっていますが、釣り具の大部分はプラスチックなどの再生不可能且つ長期間環境に残存する素材でできており、持続可能性の観点から見ると改善の余地の方が大きいと言えるでしょう。各地の海岸で観測したゴミに大量の漁具が含まれていたこと(場所によっては海洋ゴミの10−90%が漁具であるという調査結果もあり)、それらが野生動物に与える侵襲的な影響や食物連鎖を介した人間の健康被害を考えると、釣り文化や漁業の持続可能性は、生物資源の管理に加えて、海洋ゴミ削減との闘いであると言っても過言ではないでしょう。

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・プロダクトスポンサー:BONX
・提供プロダクト:BONX Grip

今回プロダクト提供を受けながらも、全くと言って良いほど出番がなかったBONX。研究航海という過酷な状況に対応することはそもそも目的としていないことが露わになった結果となりました。

サバイバル性:×
水に濡れると使えない時点で、海洋調査におけるコミュニケーションツールからは除外されました。ヨット上での交信に使うためにも、携帯回線が必要なため、最も危険を伴う外洋航海中は機能停止してしまいます。また、船上では貴重な電気を携帯及びBONXの充電に使用するだけの余裕がない状況では、ほぼ出番停止となりました。

利便性:○
陸地の調査において、電源と携帯電話回線が確保できるところではリアルタイムハンズフリー通話の利便性を味わえます(今回はそのような状況はなく、出番なし)。また、同様に電源と携帯電話回線が確保できる近海の釣り船に乗る時なども利便性は高いでしょう(別途釣り船で使用した際の感想)。資源が潤沢にある状態での利便性に特化した技術デザインであることが体験的に感じられます。

持続可能性:×
パッケージや梱包も含めて、今回のプロダクトからは持続可能性に対する配慮は見受けられませんでした。大量消費社会における利便性を優先したプロダクトの一つであると考えられます。

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・プロダクトスポンサー:メタキネシス
・提供プロダクト:クロスポイント・コンディショニング

メタキネシス社が開発したアスリート向けコンディショニング技術である「クロスポイント」を、skypeを用いた遠隔指導により研究航海中のクルーの体調管理に適したパッケージとして提供していただきました。

サバイバル性:○
基本的に医療機関の受診が必要な状況ではリタイヤするという前提での航海調査にとって、コンディショニングは重要なサポートツールでした。実際に4人のクルーのうち一人は目の不調でリタイヤし、もう一人が足の骨にヒビが入り歩行困難となった状況の中で、それ以上の体調悪化を防ぎクルーの心身の状態を保つのに、要所要所でのクロスポイントを使ったコンディショニングを活用しました。
特に腫脹や痛みで関節の可動域が制限される問題や、内臓疲労の蓄積による腰痛の悪化などの問題に対して、数分のレベルでの即効性を発揮し、身体的な機動性を高めることが確認されました。

利便性:○
クロスポイントを用いたコンディショニングを行うのに特殊な機器は必要なく、自己の身体と指導を受けられる通信環境があれば実施可能なため、利便性が高い方法でした。一方で、体系化されたメソッドであればより未然にリスク回避を想定したコンディショニングが構築可能であると考えられ、遠隔で指導する際の視聴覚的なインターフェースを工夫することで利便性の向上の余地はまだ大きいと考えられます。
そのようなインターフェースの工夫の試みの一つとして、メタキネシス社よりVrainというプロダクトが販売されているようです。

持続可能性:◎
遠隔での指導に通信機器を使用しますが、本質的にはコンディショニングは施術者と被術者の身体さえあればどこでも成立する現象であることから、物質資源に本質的には依存しないという意味で極めて持続可能性が高いと言えるでしょう。また、医療の領域で対処する以前に、コンディショニングにより健康上のリスクを回避できる領域は大きく、それらがより科学的な研究の対象となり、真の予防医療の底上げに貢献することができれば、持続可能性にとって本質的な貢献となるでしょう。

以下の写真はクロスポイント・コンディショニングの指導(膝と体軸の調整)を受けるクルーの様子です。

(奄美大島・古仁屋にて台風避難中)

一方で、そんなコンディショニングなど必要とせず、独自の「ジャックナイフ腹筋」を傍で行う花田船長。

体調管理方法は人それぞれなようです。

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その他、スポンサーとは関係なく航海中に多く使用することになった有意なプロダクトの評価

・高速道路
寄港地のそばなどを通る高速道路。


(写真は名護市・仲尾次港付近にて撮影)

サバイバル性:○
日中の太陽や豪雨に直接晒されるヨットにとって、それらを陸地で遮る遮蔽物はサバイバル上とても有益です。高架下にホームレスが集うのも、それが日光や雨を遮るシェルターとして優秀であり、人通りも少ないことに由来していることが体験的にわかりました。高速道路の下は風通しも良く、草管理もなされ、日中に暑さや虫を避けたり、雨宿りをするには好適な場所です。
震災時などで従来の居住インフラが損なわれた時も、高速道路のような巨大な建造物は二次的な生活インフラとして有効性を発揮できる可能性があります。また、そのような状況まで想定して設計を行う努力が可能でしょう。

利便性:○
高速道路本来の目的である車両の高速移動にとって、利便性を現行のインフラ及び都市計画の制限内で最大限に追求したものと見て取れます。

持続可能性:×
車社会の利便性を前提としたこの構造物は、そもそも環境負荷を生むことを前提としており、いわゆる省資源化のレベルを超えた根本的な持続可能性への配慮は見られません。

・イノシシ肉の燻製
協生農法産物を生産販売する(株)桜自然塾より、協生理論に基づく補助食の一つとして、イノシシ肉の燻製(シシジャーキー)が提供されています。

サバイバル性:◎
サバイバル生活において、いかに良質な動物性タンパク質を獲得できるかは死活問題です。イノシシ肉の燻製は、ほんのひとかけらを口に含むだけで数時間分の充実した行動を可能にするだけのパワーがあり、極限状況ほど生命の維持にとって真価を発揮する食物であることが経験されました。

利便性:◎
桜自然塾のシシジャーキーは真空パックされており、今回持参したものは通常より多く加熱して表面が炭化したものを選んだため、夏場の常温でも一ヶ月半の保存が可能でした。真空パックを開封しても一週間ぐらいはもつため、毎日少量ずつ補助食として用いるのに最適で、作業の合間などにも極めて手軽に摂取することができました。

持続可能性:△
今回のシシジャーキーは真空パックのためにプラスチック製の容器を用いており、これは他のプロダクト同様に持続可能性にとって根本的な問題を投げかけています。プラスチックなしでこれらの利便性を出すことが可能かどうかが、今後のチャレンジでしょう。

・浄水器つきボトル
様々な微生物や汚染物を含む河川などの水であっても濾過して飲むことのできる浄水カートリッジ付きボトル。

サバイバル性:◎
水はサバイバルにとって死活問題です。今回は台風避難の旅程上、トカラ列島の後半以降で飲み水の補給が不可能な区間があり、湧き水や船内の水タンクに貯留していた水を濾過して飲み水とするのに重宝しました。水源を見つけることは難しくなくても、それを安全に飲める水にするという点で、一度体調を壊すと生死に直結するサバイバル生活においては必需品となりました。

利便性:○
使用したのはボトルに蓋に浄水カートリッジが付いているもので、水筒として携帯するにも、食事の際に水差しとして使うにも便利な大きさと機能でした。カートリッジの交換や、浄化された水と元の水の分離が完全でないという点で改善の余地があります。

持続可能性:△
この製品を多くの人々に供給するには、それが生み出す環境負荷を精査する必要があるでしょう。特にプラスチックの使用がネックとなっています。

・洗濯バサミ
100円ショップで購入した洗濯バサミ。ヨットの手すりのロープに衣服やタオルを干すのに使いました。

サバイバル性:○
海洋調査で濡れた衣服を迅速に乾かすのに、ヨット上ですぐに使える洗濯バサミは必需品でした。

利便性:◎
使用の手軽さ、軽量さ、風に対する抵抗性、いずれもヨット生活での衣類の乾燥のために欠かせない利便性を備えています。

持続可能性:△
やはりプラスチック製品であることが海洋汚染に直結してしまいます。

・ポリエステル
調査時に着用した下着は、ユニクロのポリエステル製のものを選びました。

サバイバル性:○
サバイバルに特化した機能性はないものの、日用着として身体の保護や保温には十分な機能を発揮してくれました。

利便性:◎
ポリエステルの最大の強みである速乾性は、海洋調査にとってはもっとも利便性が高く、海に入っても暑い日中であればしばらく風に吹かれていれば着たまま乾かすこともできるほど便利なものでした。

持続可能性:×
ポリエステルを選択することで、無数のマイクロプラスチックを生みます。海洋投棄されればその影響は長きにわたり生態系の食物連鎖の中に残るでしょう。利便性とは裏腹に、実際の地球環境に与える影響については配慮が欠如している製品です。

・竹繊維
ポリエステルとの比較のために、100%竹繊維の下着やタオルも使用しました。

サバイバル性:○
通常の下着としての基本的な機能を十分に果たしてくれます。細かい竹由来の繊維でできているため伸縮性が高く、包帯や焚き付けに用いるなど被服以外の用途も考えられます。

利便性:△
ポリエステルに比べれば速乾性に劣るため、水中と陸上を行き来する使用方法においては利便性が下がります。(混紡にするなど、100%竹繊維にこだわらなければ改善策はあるようです)

持続可能性:◎
近年日本各地で勢力を拡大している竹林の適切な管理につながる上に、再生可能な資源であるため、繊維産業を持続可能なものに転換するために極めて有望な材料であると言えるでしょう。

・い草の寝具
100円ショップで購入したい草を編んだ茣蓙と枕。

サバイバル性:○
寝具としての基本的な機能を持ち、虫よけなどにもい草由来の効果を発揮してくれます。

利便性:◎
蒸し暑い船内で汗汚れから寝床を清潔に保ち、通気性と防虫性を兼ね備えた、安価ながらも非常に利便性が高いものでした。研究航海の状況では効果な寝具より質素ない草の茣蓙と枕に軍配が上がります。

持続可能性:△
竹繊維と同様に植物由来の再生可能資源です。一方で、それらの生産法が耕起と肥料・農薬の使用などの物質資源投入を前提としていないか、製造と販売の過程で適正な取引が行われているか、今後健全な規模で発展できる産業形態であるかなど精査が必要です。

・ユーグレナ
航海中の栄養補助食品として、ミドリムシのちからを携行しました。

サバイバル性:×
当初の予想とは裏腹に、栄養補助食品が必要になる局面は一切ありませんでした。一つには狩猟採集により豊かな食糧を調達できたこと。二つ目には、実際にサバイバルで危機となるときに必要なのはベーシックなカロリーや良質のたんぱく質であって、猪ジャーキーなどは役に立つものの、植物性のバランス良い栄養とはかけ離れたものに感じられます。
また、最初はルーチンとして1日3粒ほど飲み始めたユーグレナも、新鮮な魚介類などを食べ始めるとすっかり摂取を忘れてしまい、クルー全員にとって生理的な欲求の対象にはなりませんでした。栄養学的な説明はいろいろあるのですが、サバイバルの局面ではそもそもバランスの良い栄養補給をうたった補助食品に本能的な感覚が反応しない、という事実が露わになりました。

利便性:○
必要性はともかく、手軽さと保存性という意味では、優れた製品だと言えるでしょう。

持続可能性:×
そもそも人類の歴史上栄養補助食品は近年になってしか存在せず、元来持続可能性とは無関係な製品と思われます。仮に人口増加によって新鮮な食物を生態系から摂取してきた活動を工業的な栄養素の生産に置き換えることが必要だという主張があったとしても、資源消費の観点から持続可能性について言及している情報はこの製品に関しては見つかりませんでした。

・市販のAI
GoogleのAIスピーカー、Google home miniを使用しました。

サバイバル性:△
天気予報などサバイバルに直結する情報は得られますが、電源やネットワークに依存するため、サバイバルが厳しい状況になる程使えなくなってきます。また、様々な魚介類の名前の検索や種名の判定、有毒性の有無などにはほとんど役に立ちませんでした。

Google home mini とのサバイバルに関する会話例(動画):

利便性:○
ハンズフリーで喋りかけるだけで使え、音楽などを再生して船上生活の文化的レベルを上げるのには便利な道具です。

持続可能性:×
Google home を初めとする各種AIスピーカーについて、持続可能性に言及した資料が見つかりませんでした。