瀬戸内訪問: 直島・豊島・犬島・小豆島
- 2020.09.25
- 視察旅行
当社団代表の舩橋真俊が、瀬戸内・直島で開催された宇沢国際学館主催の「宇沢フォーラム(今、瀬戸内から宇沢弘文 ~自然・アートから考える社会的共通資本~)」に登壇してから、1か月経った8月後半に改めて舩橋を含めた社団メンバー3人と宇沢国際学館の3人の合計6名で瀬戸内の島々を訪れました。
島々でのアート体験や視察の様子は既に舩橋より3回に分けてブログ紹介されていますので、ここでは社団理事の本條の目線から、簡単にレポートします。
舩橋によるブログ
瀬戸内・宇沢フォーラム (1) : 犬島 https://synecoculture.org/blog/?p=2730
瀬戸内・宇沢フォーラム (2) : 直島 https://synecoculture.org/blog/?p=2770
瀬戸内・宇沢フォーラム (3) : 豊島 https://synecoculture.org/blog/?p=2860
最初に訪れた直島では1日で李禹煥美術館、地中美術館に加え、公開されている7軒の家プロジェクトの内、「角屋」「南寺」「護王神社」「碁会所」「はいしゃ」の5軒、The Naoshima Plan 「水」、「直島コメづくりプロジェクト」の田んぼを巡りました。
これだけの場所を短時間で訪問できたのも、福武財団のはからいで車を手配、案内してくれたおかげです。
巨匠たちの作品に次々と圧倒された後、最後に視察したのは直島のコメづくりを復活させ、実作業を通して島の文化を見つめなおすことを目的とした「直島コメづくりプロジェクト」でした。発端は10年以上前の展示会に遡り、年に何回か「お米」を通した地域振興イベントを開催しているとのことですが、このプロジェクトを担っているのは、現在では、財団所属5年目の梅島敬太氏一人とのこと。梅島氏はもともと大学では工学を専攻、農作業は未体験だったということで、作業をする中で色々と壁にぶつかることも多いそうです。島内に点在する他のアート作品とは位置づけが異なる「アートの日常化」としての同プロジェクト。色々と手探りに模索しながらコメ作りに励む梅島氏の姿は印象的でした。
直島では直島銭場「I❤️湯」も利用しました。21時まで営業しているということで一日の汗を最後に流させてもらいました。お風呂に入りながらアート作品を味わうというのはなんとも贅沢な時間の過ごし方ですね。
次に訪れた豊島では産廃処理地と豊島美術館、「心臓音のアーカイブ」を案内してもらいました。
豊島に産業廃棄物の不法投棄がされはじめたのが1970年代、それから地元住民と行政との長い論争の末、実際にそれが事件として摘発されたのが1990年、調停成立後、本格的な処理が始まったのが2003年とのこと。そして、2020年現在、産廃処理は未だ完了していません。この果てしなく続く闘いを住民代表として仕切ってきた安岐登志一氏。当日はご本人から直接、貴重な体験談を聞くことができました。
我々一行が説明を受けたのは地域住民中心で立ち上げ、管理している資料館。
中では上の写真にあるFRPで固めた産業廃棄物の土壌が当時の状態で保存されています。
この資料館は申し込めばどなたでも見学できるそうです。豊島問題を知っているか否かで、この島での体験が全く変わってきます。一人でも多くの人がこの問題について知り、資本主義経済がもたらす環境と人に対する「負」の側面について学ぶ必要性を感じました。
現在でも続く地下水浄化対策エリア。住民たちの闘いは未だ終わっていません。
産廃処理地を訪れた後の豊島美術館は、その存在自体が処理地とは対照的に静謐そのものでした。作品内部で湧き出る泉はそれまでのざわざわとした気持ちを落ち着かせてくれました。是非、産廃処理地との組み合わせで美術館を訪問されることをお勧めします。
「心臓音のアーカイブ」も興味深い作品です。自分の心臓音を躊躇なく保存してきました。この先も、ほぼ永久的にその音は保存されていくようです。
訪問3島目の犬島ではかつて銅の製錬所の煙突を横目に歩いて島を一周しました。
もともと、今回の瀬戸内海訪問は犬島での協生農法の実装の可能性についての相談を受けて実現したものです。
とはいえ犬島到着後、まずは、港の横にあるチケットセンター内で島についてのブリーフィングと犬島「家プロジェクト」(S 邸・A邸・I 邸)の植栽や「犬島 くらしの植物園」の運用に取り組まれている「明るい部屋」の橋詰敦夫氏からご自身の島での活動をご紹介いただきました。犬島には既に多種多様な植物が彩られた空間があることを知りました。
その後、実際に植物園を案内していただくと、そこには花の溢れる広場、ハーブや野菜、果樹を育てている菜園がありました。放し飼いにしているニワトリ達やカフェも。
たくさんの植物が花を咲かせている素晴らしい植物園でした。
植物園を訪問した後は、植物園とは別の島内の農園候補地を4か所視察させてもらいました。
候補地1:植栽のほとんどない、岩盤のような土地
候補地2:植栽が比較的豊かな土地。
候補地3:候補地1同様に岩盤のようにかたい地面の土地。隅の方だけ植栽あり。
候補地4:畑として使用されていた痕跡のある比較的豊かな土地。但し、海の至近。
その際、犬島に移住し活動している若手メンバーと話し、彼らが彼らなりのアプローチで島に新たな教育現場や農園づくりに果敢に挑戦しようとしていることを知りました。特に農園は日々のメンテナンスが必要となることから、現地で主体的に取り組めるメンバーはプロジェクト進行の大きな力となります。
犬島を訪れるまでの島々では日本や世界を代表する巨匠の作品に心を揺さぶられ続けていましたが、ここに来て、作品展示とは別の形で瀬戸内海から世界に向けた独自の自然や生態系に関する価値の発信を若手メンバー達の活動を通して、できるのではないかとの可能性を感じはじめました。
ベネッセには以下理念があるそうです。
・自然こそが人間にとって最高の教師
・在るものを活かし無いものを創る
・経済は文化の僕
特に2点目の「在るものを活かし無いものを創る」の観点から、新たな農園作りを通して、自分たちを取り巻く環境への理解を促進し、動的に変化する環境との付き合い方を継続していく術を探索するプロジェクトは、この理念に叶うのではないでしょうか。それはもしかすると「協生農法」の考え方をきっかけに、様々な可能性を探索できるのかもしれません。。その過程でお手伝いできることがあれば、喜んでご一緒したいと思います。
そして、最後に訪れた小豆島は、犬島から入ったことが影響してかかなり広大に思えました。それくらい山々の合間に集落が点在しています。例えば、小豆島には数多くのそうめんの製麺所があるらしく、それぞれに味が異なるそうです。この話からも小豆島に多様な文化が混在していることがわかります。
ここでも財団の方々に小豆島をぐるっとご案内いただきました。
そして小豆島には福田という地域に旧小学校を再生して設立された「福武ハウス」があります。そこを拠点に島での活動が展開され、また、アジア諸地域とつながるプロジェクトが行われています。
福武ハウスの裏庭にも小さな農園が作られていました。財団の小豆島担当メンバーの方々は、協生農法実践マニュアルを読みながらチャレンジされているとのことです。ここも、この先の農園の展開が楽しみです。
(最後に)
今回の瀬戸内の島々の訪問はそれまでのほぼ外出しない日々とは対照的であまりにも鮮烈だったため、体験したことを咀嚼するのにかなりの時間を要しました。そして、何から何まで福武財団の方々のお世話になりました。その素晴らしいホスピタリティーに心より御礼申し上げます。そして宇沢国際学館関係者のみなさまにも心より感謝申し上げます。本当に素晴らしい時間をご一緒させていただきました!
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