瀬戸内・宇沢フォーラム (1) : 犬島
当社団代表の舩橋真俊が、瀬戸内・直島で開催された宇沢国際学館主催の「宇沢フォーラム(今、瀬戸内から宇沢弘文 ~自然・アートから考える社会的共通資本~)」に登壇しました。
フォーラムに先立って行われた福武財団のアート体験ツアーと、犬島・直島・豊島の視察の様子を紹介します。
財団のチャーター船に乗り、銅の精錬所跡を見ながら犬島へ上陸。
犬島精錬所美術館のチケットセンターで、犬島の歴史について学び、地元のタコ飯をいただきました。
梅雨の晴れ間で陽射しがじりじりと熱く、かつて銅の精錬所から排出されたスラグ(銅カラミ)が黒く浜一面に広がっています。
海はかなり濁っていました。おそらくここ数週間の豪雨で、本州側からの土砂や農地からの排出が大きく影響していると考えられます。
門を潜った先のアプローチには、銅を多量に含んだ黒いカラミレンガの舞台が広がり、陽炎を放ちながら太陽熱を蓄えています。
島内ではあちこちに見事な石垣があり、かつて大阪城の築城にも使われた花崗岩(犬島石)の産地であることが伺えます。
第一次世界大戦時の銅の需要に応えるために急成長し島内人口数千人を支えた製錬産業ですが、1925年に操業停止して以来、廃墟そのものとなった銅の精錬所。
内部には、鉄板と煙突を利用したエネルギーを消費しない自然空調が構築され、その長大な空気の通路に沿って柳幸典さんの「イカロス・セル」という作品が同化しています。
三島由紀夫が使用した木製の家具が透明な温室の中に吊るされており、日光を燦々と浴びています。この温室が自然空調のポンプの役割をしています。
写真では伝わらないのですが、個々の作品が美術館の中で展示されているのではないのです。
犬島が辿ってきた歴史やその場にある鉱物や人工物を前提に、アート、建築、歴史、地理が相互に抜き差しならないレヴェルで半ば偶発的に組み合って成り立つ必然が、地底から噴き出す涼気に吹かれながら静かに息づいていました。
生物も無生物も、関わるもの全てがその場を紡ぎ出していくような、島の総体的な変容プロセスとしてのアートが存在しているのです。
これは、これまで見たことのある海外の一流美術館でもあり得なかったやり方で、深く新鮮に感じました。
続いて、犬島内に展開する「家プロジェクト」の現場にも案内していただきました。
家プロジェクト S邸 荒神明香「コンタクトレンズ」(2013)。
無数に連なった大小様々なレンズの界面を通じて、古い街並みと山の緑が表裏一体の光を交歓しています。
家プロジェクト I邸 Beatriz MILHAZES「Yellow Flower Dream」(2018)。
大きく、明るく、集える広場のような空間を生み出すオブジェクトは、特に高齢化が進む犬島の住民の方々に好評のようで、高齢化社会におけるパブリックアートの趣向を考える上でも面白い作品です。
他にも非常に迫力のある作品が立ち並び、是非実際に行って体験されることをお勧めします。
最後に訪れた「暮らしの植物園」。
様々な有用植物が咲き乱れ、その間を自由に散策することができます。
温室の中には、島で採取した様々な植物の苗が育てられていました。
裏には野菜園がありました。犬島は花崗岩質でミネラル分が多く、味の濃い野菜ができるそうです。(これは半乾燥地のジンバブエなどでできる農産物とも共通しています。)
柑橘園もありました。果樹の種類をさらに増やして、下草の部分に様々な野菜やハーブを入れると、協生農園としても活用できそうです。
様々な才能のある方々が、自由な発想で寄り集い、島の住人たちと一緒にゆっくりと作り上げていく様が、やはり福武財団の目指すアートのコンセプトと親和性が高く、心地よい広がりと一貫性を感じることができました。
その後、島内のホッピーバーで宇沢フォーラムの講師座談会の収録を行いました。
夕刻になり犬島のランドマーク「犬島の島犬」のある港から、宿泊地の直島へと向かいます。
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