エジプト視察(6):Cairo(農業編)

エジプト視察(6):Cairo(農業編)

カイロ近郊での農業視察編です。

ギザより更に南へ下ったところにある、Abu Sir(地図中で赤く囲まれた地区)にやって来ました。

小規模農家が連なっており、その中の一つを訪問して色々な話を聞くことができました。

夜明け前に水牛、牛、ロバなど家畜を10頭ほど連れてきて、1日農作業し、夕方近くの家まで家畜とともに帰るそうです。

水牛舎の中の様子。見慣れぬ人が来て少し戸惑っていましたが、アルファルファやアブラナ科系の葉を勢いよく食べていました。

水牛の糞は肥料として使用します。

施肥方法を見せていただきました。いわゆる機械で耕して漉き込むのではなく、牧草地の表面に藁と混ぜた牛糞をそのまま撒いて、鍬で表土を少し削って混ぜる程度です。全て人力です。

牛糞肥料は1立方メートル70EGP(Egyptian Pound)程度で販売することもあるそうです。

牧草となるイネ科の草。

ニ反ほどの土地で、アルファルファ、イネ科牧草、キャベツ、ラディッシュ、カリフラワー、ホウレンソウ などをモザイク状に組み合わせて栽培していました。

牛糞肥料以外に、化成肥料、農薬も使用しているそうです。施肥のせいか、どの野菜もいずれも大きく育っていました。
巨大なキャベツの畑。


昼食用に収穫した巨大なラディッシュ。

やはり巨大になるカリフラワー。

ホウレンソウの区画。

これらの農産物はローカル市場で販売しているそうです。
他に、ハイビスカス、レモンなども栽培しています。
ハイビスカスは蕾のタネを除いて生の皮をそのままお茶にします。

非常に鮮やかな紫紅色のお茶になります。

雑草として管理されていた、センダングサやオニノゲシ。

土壌は粘土と砂が混ざったナイルの川土です。

農園の人がいつも食べている食事に招待してくれました。
サトウキビの茎や木切れを使って火を起こし、非常に香りの良い紅茶を入れます。

食事はパイ生地のように幾重にも薄い生地が重なっているパンに、スパイシーな香辛料が混ざったチーズと黒蜜を乗せて、収穫した生野菜とともに食べます。


穀類や乳製品が主ですが、どれも柔らかくて消化しやすいように感じました。香辛料でお腹が活発に動きます。

食後に、周囲の農地も見て回りました。
ここでも水鳥とともに午後ののどかな農作業が続いています。

モスクのそばで、機械式の水汲みポンプが稼働していました(動画再生可能)。

しかし、農業用水を組み上げる水路にはそこかしこに牛糞肥料の山が流れ込み、有機物が過多な状態になっていました。

これらの肥料の山も自分で管理しているそうです。

案内してくれた農家の方は、それ以外に2ヘクタール程度の開けた農地で、ニンニク、アルファルファ、コーン、ガーリックなどをモノカルチャー栽培していました。


これらの農地から得られる産物もローカルに流通させています。
年間10000EGPの土地賃貸料がかかるそうです。

エジプトでは2エーカー以上は政府が全て作付けを決めます。
イネは去年から全面禁止になり、小規模に植えていても罰せられるそうです。
主要産物であったサトウキビも大幅に減反させられたそうです。

日付は変わって、エジプトの農業について専門家に会って話を聞くために、カイロ大学に向かいました。
カイロの中心地は渋滞がひどく、歩けば10分で着く距離もなかなか進みません。

ようやくカイロ大学に着きましたが、入構許可に複雑な手続きが必要で、足止めをくらいました。

カイロ大学は、エジプトにおいて200年以上の歴史を持つ最高学府です。エジプトの東大といったところでしょうか。
スカーフをかぶった女子学生も頻繁に出入りしています。

カイロ大学農学部の教授で、日本との共同研究も複数行い、ファラオ時代からある Egyptian Clover の専門家でもある Korany Abdel-Gaward 教授のお話を伺うことができました。
教授は初対面であるにも関わらず、協生農法に全面的に賛同してくださり、乾燥地における協生農法の発展と普及のために研究協力をしていただけることになりました。

(写真はカイロ大学近くの水煙草窟にて)
一方で、政府との関連も強いせいか、アスワンハイダムの利点については色々話してくださいますが、農業や生態系への功罪については一切語ってくれませんでした。

次に向かったのは、同じくカイロ市内にある American Chamber of Commerce です。エジプト大使館を通じて、エジプトにおける農業・食品産業の会社トップ10社の社長・CEOを集めていただき、協生農法についてプレゼンしました。

いずれも重機、化成肥料、農薬、ビニールマルチなどの資材を大量に扱う大規模モノカルチャー主体の慣行農法の会社の重役たちです。
最初はこれまでの農業と全く異なる考え方に戸惑い、全体像を掴みかねているようでした。
しかし、規模が大きな会社になるほど、トップの人間は農業を単なるビジネスとして割り切っています。余計な個人的な思い入れがあっては、会社全体が危うくなることを肌身をもって知っている人たちです。
経営面からも慣行農法を砂漠で行うことにはコストがかさむことは分かっており、単に砂漠化の回復という生物多様性を増進する側面だけでなく、ビジネスとしての利益の可能性の部分で、協生農法には大きな可能性があることをわかってもらえました。

最初はACC代表者の「一体、君は何がやりたいというのだ!これではまるで理想論ではないか!」という半ば苛立ったような質問から、全員を巻き込んだ様々な議論と説明を経て、
「つまり、コストがほとんどかからない。小規模で始められて利益をコンスタントに積み上げられる。」というビジネスとして成り立つ理の部分まで掘り下げることができました。
参加した10社のうち、5社がエジプトにおけるパイロットプロジェクトに賛同の意を示してくれました。

ACCで出された昼食が美味しかったです。

おまけ:Cairo市内観光のスナップショット