頭ヶ島・立串・津和崎

頭ヶ島・立串・津和崎

今日も朝から晴れで、目を閉じても瞼の裏に日が熱いくらいです。

出航してから睡眠時間が5.5時間程度でしたが、ここにきて忙しくなり昨夜は3.5時間でした。
揺れる小さな船の上で生活していると全身の感覚が周囲の自然とつながって来て、身体の中をそのまま風が吹き抜けたり光が射し抜けていくように感じ、疲労はありますが疲労感はあまりありません。

調査の記録やクルー同士の連絡を取るのにPCや携帯などの情報通信機器は便利ですが、電気がないと使えません。
第二レグでも様々な形で充電を試みます。
今回は船の発電機や電気自動車などから携帯型リチウムイオンバッテリーに充電し情報通信機器を動かしています。

昨夜もクルーが釣りに出かけ、カサゴやらアオリイカやらで生簀は満タンです。

今日は陸組と海組に分かれ、海組は釣りによって食料調達、陸組は電気自動車で上五島の中通島最北端まで向かいます。

途中に立ち寄った鯛ノ浦。奈良尾と同様に天草への帰路に近く、奥まった場所にあり寄港地としてもなかなか良い条件を満たしています。

頭ヶ島の世界遺産のキリシタン教会に向かおうとしたのですが、カーナビを使っていたのにかかわらず何故か道を間違えてしまいます。
ふと目について入ってみたのが織田郷にある織田御前。
昔の里山が廃れて放棄されたような場所にありましたが、土着の小さな社が残っていました。


有川などの都会的な空気とは隔絶した、不思議と懐かしいような印象深い場所でした。

頭ヶ島に進路修正した際に通った太田有川港もひなびた雰囲気がよく、メガホンで放送しながら軽バンで刺身を売りに来るおばちゃんとすれ違いました。
ここも明治に発祥した宗教の教会がありました。

窄山さんの話にもありましたが、昔は集落ごとに気質も言葉も風習も違い、それぞれ信仰する宗教も多様だったのでしょう。
グローバリゼーション以前の集落ベースの生身の文化的多様性が、入り組んだ地形や無数に分かれた島々によってまだその名残をとどめているようです。

頭ヶ島に近くにつれ、素晴らしい自然の景観が広がります。

真っ赤な頭ヶ島大橋からの眺め。

橋の下では渦潮が生じるほど潮の流れが早く、場所や潮の干満にもよるため何も知らずに入ると流されかねません。

上五島空港でシャトルバスに乗り換えて、世界遺産の白浜集落へと向かいます。

世界遺産の天主堂が見えてきました。

軽量で丈夫な砂岩で造られた教会。
無骨な外部と柔和な内部(撮影不可)が対照的でした。


石垣も当時のものが残されています。

教会の隣では、今でもここに住んでいた人々の子孫が生活を営み、畑を続けています。

満開を過ぎてもマツバギクが咲き続けているキリシタン墓地。

最後に白浜の綺麗な海水を採取して帰りました。

気温がどんどん上がり暑いので、給水には1/4の海水を混ぜて塩類と浸透圧の調整を図ります。

国指定重要文化財の青砂ヶ浦教会。

さらに北に向かうと、突然異常に立ち枯れたタブの林がありました。

近くの椿工房にこの林について聞くと、何と枯らしたのはこの工房で、工芸に使うためのヤブツバキの林を作るために、元からあったタブノキが邪魔だったので薬を打ち込んで枯らしたそうです。

中通島の北部にある北魚目には、自然と人の暮らしが作り上げてきた文化的な風景である「文化的景観」が広がっています。
まさに今回の調査の主眼である社会-生態系が密接にかみ合った生活様式が保存されているところです。
島の人の話によると、元々住んでいた漁民の集落は海沿いの河口近くなど条件の良い場所にあり、後から入ってきた農民は山の急斜面など狭い場所に石垣を作って自給用の小さな畑を営んでいます。

立串の漁村の風景。

曲がりくねった山道沿いにある、石垣で段々に積み上がった畑と数軒の集落。

道の途中にはニホンミツバチの巣箱もありました。

すぐ近くにはこんな光景の場所も。

小瀬良の農の集落。急斜面を石垣で区切って活用しています。

住民の方々に話を聞くことができました。

昔は牛を飼っていたそうです。

昔は道路の前の森も活用していたので木が低く、今では隠れてしまっている海が大きく見えたそうです。

山道脇の本当に小さな場所に、手積みの石垣で器用に住居と畑を組み上げています。

さらに北上し長いトンネルを抜けると、急に海と森の空気が濃くなりました。

中通島最北にある米山教会と、

最北端の津和崎の郵便局。

津和崎の港からは隠れキリシタン関連遺産のツアーが出発します。

恵比寿様が祀られていました。

津和崎灯台から、さらに北の野崎島がすぐ手が届きそうな距離に見えます。

近辺にはヤブツバキの林。

放置された民家の庭には大粒のビワが鈴なりでした。

最後に、船用のディーゼル燃料を購入して帰ります。18リットルのタンク二本で、これからの旅程と天草までの帰路の風が悪くてもエンジンだけの機走で帰ることが出来ます。

船では海組による即席夕食クッキングが始まりました。
大量のカサゴやイカを、

あっという間にアクアパッツァに仕立てます。

窄山さんからいただいた五島豚は生姜焼きに。

噛めば噛むほど味が出て、ねっとりしておらず歯ごたえが良いケンサキイカの刺身。

食後に空を見上げた束の間だけ、朱桃色の空が広がっていました。

すぐに宵闇が迫ってきます。

梅雨前線はまだ南の方で停滞しているようです。第一レグに辿ったコースは豪雨と雷雲に覆われていますが、第二レグは本当に穏やかな海・空が続いています。エルニーニョ現象により梅雨前線を北に押し上げる太平洋高気圧が弱いためで、場所によっては渇水やこの後に豪雨増水が予想されていますが、調査をする上では過ごしやすい気象です。

巻き網漁船は夜になっても煌々と明かりをたいて出航準備を進めています。

近場で夜の素潜り調査。※魚介類の採集は現地の複数の漁民に確認・了解を得た上で実施しています。

ホンアナゴ、へダイ、ハコフグ、アイゴ、その他貝類。

最後は昼間に採取した海水のプランクトン調査です。

今回持ち込んだUSB顕微鏡はあまり解像度がありませんでしたが、海水に光をあてると走光性を示し動くプランクトン類が確認できました。(画像をクリックして動画再生可能)

明日は若松島に移動します。