エジプト視察(4):Luxor(農園視察編)

エジプト視察(4):Luxor(農園視察編)

古代遺跡の見学の合間をぬって、Luxor近辺にある農園の視察も行ないました。

Luxorの西岸へ、市街を抜けて水路に沿って進むと、様々な畑がモザイク状に入り組んだ農地が広がっています。

水の引かれた畑には水鳥が集い、農民たちと午後ののどかな時間をすごしていました。

土はナイルの粘土が混ざっているせいかかなり粘性があり、乾燥すると大きく硬い土塊になります。

El Qurna という場所にあるサトウキビ農園にやってきました。

人の背丈の1.5倍ほどあるサトウキビが茂っています。

案内してくれた地元の人の話では、アスワンハイダムの建設以降、ナイルが氾濫しなくなったので地力が回復せず、化学肥料と農薬に依存するようになったということです。
砂糖を海外から輸入する方が安くつくため、エジプト内でサトウキビは厳しい減反政策が取られているとのこと。
価格も政府主導で決まり、近くにサトウキビの加工工場があるそうです。

Luxorの町中でサトウキビのジュースを試飲して見ましたが、やはり肥料を使っているせいか喉が乾く後味がします。今まで経験した中では、石垣島で実験した軽度の肥料あり栽培のサトウキビに近い味でした。
政府主導で作物や農法を指定してくるので、砂漠なのに立派なものができるようですが、慣行農法にとっての基準である「肥料で立派に肥大した作物」という価値観からは抜けられないようです。

他に、このような小区画ではトウモロコシや家畜の飼料となるアルファルファを中心に栽培しています。

自家用家畜の餌となるアルファルファを刈ったり、時間になったらイスラム教のお祈りをしたりしながら、ゆっくりと時間が過ぎてゆきます。

小さなロバが使役動物として使われており、ちょっとした荷物や農産物を積んで行き来しています。

エジプトでは人口の50%以上が貧困層に位置し、主に小作農として生活しています。そのうち10−15%が極度の貧困に陥っているそうです。

再び車で、Luxorの南西10km程度のところにある El Dabieea 地区のマンゴー園に向かいます。

立派な門構えの農園。開園して17年目で、75ヘクタールもの面積にマンゴーのみを単独で7600本栽培しています。

当然、機械での耕起除草と、化学肥料(窒素・リン酸・カリウム・マグネシウム)を用いており、農薬でミツバチも死んでいるそうです。

肥料は政府指定のものを購入し、一部援助も出ているようです。

マンゴーの花。

収穫は100%人力で季節労働者を雇い、収量は毎年450トン程度以上、3−4月に来る砂嵐が弱ければ最大600トン程度まで上がり、全てをローカルの市場に出荷しています。
この農園は慣行栽培ですが、オーガニック栽培のマンゴーはエジプトで売るには高すぎるのでヨーロッパに輸出されているそうです。

枝が腐る病気を防ぐためにマンゴーの周囲を全て耕起除草したり、農薬でミツバチが減ってしまい受粉に困っているという話をしながらも、不自然な栽培法という意識はあまり見られず、政府の決めた栽培法を単純に受け入れて生産しているようでした。
会話の中で詳しく聞いてみると、どうやらエジプト人の感覚として、単にローカルに生産された農産物と”natural”な農産物の感覚は混同されています。耕起・化成肥料・農薬を使うモノカルチャーの栽培法であっても、ローカルな市場に流通しているというだけで、自然の恩恵に満ちたナチュラルなものと捉えてしまうバイアスがあるようです。

Luxorに戻り、今度は船(ファルーカ)で西岸の観光バナナ農園に向かいました。

入り口にあったナイルワニの剥製。歯の鋭さはそのままです。

観光客用に、生きたワニも飼われていました。放流は禁止です。

ナイルワニは、アスワンハイダムの完成以降は産卵のための遡上ができなくなり、下流における卵の駆除などの捕獲圧も相まって今では絶滅しています。
観光客にとっては泳ぐことができ、船の運行上も安全なのですが、生態系にとっては大きなダメージでしょう。
ナイル沿いの緑地帯の縮小とも関連しているかもしれません。

この農園で栽培しているバナナはローカルな品種で、とても美味です。


エジプトには他にも William Moroccoや、イスラエル(大きいが甘くない)という品種もあるそうです。

栽培には一部化学肥料(政府より調達)、畜糞を使用し、他にも穴を掘って1年間草を埋めて発酵させたものを肥料として使用しています。この腐葉土は特に化学肥料の代替になっていて最近ではあまり化学肥料は使っていないとのことでした。いわゆる有機栽培の範疇に相当します。


バナナ以外にもオレンジ、イチジク、マンゴーなどを一部栽培しています。

昔使っていた、家畜や人などの力だけで動かせる水車式の灌漑装置。

畑の区画に沿って水路が切られていて、全域まで水が行き渡るようにうまく設計されていました。

土壌はナイルの川土をそのまま使用しています。40%肥沃な有機質を含み、60%は砂です。
トカラ列島の宝島で見た自然農法のバナナのように土盛りはしていませんでしたが、3世代以上問題なく連作出来ているとのことです。

バナナの収穫は2-3月に行い、収穫後35日は一切の水を断ちます。病気に冒されていないかぎり完全伐採はせず、バナナの木の上側1/3だけを切り捨て、残りの栄養で周りに生えて来る新芽を育てます。
開園して15年の間、この状態を維持しているそうです。他の果樹に関しては通年で雑草をとるそうですが、バナナは特に除草しておらず、葉がつくる日陰で制御できている。害虫対策も特にしていないそうです。

バナナに関しては、併設のレストランで観光客相手に売る以外に、先物取引をしていました。
カイロの一企業から買い付けを得て出荷しているが、その先、どこに出荷されているかはまでは関知していないそうです。

Luxorの下町では、目ぬき通りに軒を連ねる民家に招かれてエジプト名物「ハト料理」をご馳走になりました。


民家の屋上で飼っているらしく、餌は家庭の生ゴミなどですが、頭まで柔らかく食べられて非常に美味です。

Luxor出身で日本にも在住経験のある方から、色々な話を聞きました:

・アスワンハイダムが出来てから、ナイルの氾濫は制御できるようになったが、ナイル流域の緑地が却って減ってしまったこと。
・ナイルが氾濫している間は、ウガンダやスーダンのナイル源流から腐植を含んだ粘土質の土が毎年供給され、無施肥での栽培が可能だったこと。
・しかしダム以降は化学肥料が必要になり、野菜やフルーツの味が変わったと祖父が言っていたこと。
・ナイル上流にあるエチオピアのダムができると、12月からナイルの水が半分になる可能性。すでに水位の減少が観測されている。(後日、氾濫がなくなったことで毎年一掃されていた寄生虫の卵が残留するようになり、公衆衛生にも影響が出ているという話を聞きました。)
・水不足なので稲作は法律で禁止、見つかると刑務所というのは本当の話。
・古代エジプト人と現代エジプト人はおそらく違う人種と考えている。日本に住んでみて、神道の神社と古代エジプト文明遺跡の相同性から、古代日本人と古代エジプト人はやはり交流していた可能性があると感じたこと。
例えば、エジプトの神殿のサンディスクは神道の鏡に見える。
ツタンカーメン王の紋章は菊の御紋に似ている。
・他にも、京都の祇園祭のルーツがシオンの丘である話も絡めて、聖徳太子がペルシア人であった可能性があるという説にまで話が及びました。

最終日の朝は、気球に乗って大空へ。Luxorを上から眺めます。

夜明け前に続々と炎で熱せられた空気を呑み込み、立ち上がる熱気球。空を飛ぶ手段としては最も原始的な、熱力学の傑作です。

ふわりと加速感なく、周囲の風とともにスムーズに飛び立ってゆきます。

朝焼けの中で、小規模な農地がモザイクを形成している様や、ナイルに沿った緑地帯と砂漠の切れ目がよくわかります。


見学したサトウキビ畑のようにモザイク状に広がっている小規模農業の区画と、間を縫うように形造られた集落。


砂漠の上は、水が走行した様子がよく分かります。典型的なフラクタル模様です。

よく見るとキツネが走っていました。

最後は緑地が切れるあたりにスムーズに着地。人力で、たくさんの人夫が取り付いて押さえます。

新しい壁を作り水路を切って、新たな灌漑農地を開拓する方法が見て取れます。

再び飛行機に乗り、首都 Cairo を目指します。