口永良部島
- 2018.07.29
- 研究航海
トカラ列島を去り、ここからは大隈諸島編です。
海上は水蒸気が濃く、島影一つ見えない中を北上します。
360度水平線の中、穏やかな海を口永良部島へ機帆走。 – Spherical Image – RICOH THETA
2015年の新岳噴火と火砕流の跡も生々しい、口永良部島に到着しました。
一万メートルも吹き上がったという火山灰は、風向きにより屋久島南方の海上に降り注ぎ、北西側の集落は無傷で済んだそうです。
火砕流も湾の中間地点ぐらいまでで止まったそうです。
現在の人口は100人余り、実際に住んでいる人は80人余りと言われています。
集落近辺の植生を調査しました。
リンゴツバキや、ダンドク、ショウガ、ハイビスカスなど亜熱帯のカラフルな花が人寂しげに咲いています。
集落を歩いていると、ふと立派な石垣に目が留まりました。
これまでも沖縄以北ではサンゴ石を積み上げてオオイタビを絡ませた石垣はたくさん観察してきましたが、これほど立派で高いものは初めてです。
民家というより、今帰仁城のような城(グスク)の風格があります。
偶然、この家にお住いの兼子さんに声をかけていただき、中を案内していただきました。
入り口は結界が張られ、石垣を直角に四回曲がらなければ入れず、要塞のようです。
口永良部島のある民家の入り口。石とオオイタビを絡ませて、入り組んだ防壁のような構造になっている。 – Spherical Image – RICOH THETA
中には小さなビオトープがあり、モンキアゲハが乱舞していました。
この石垣は他の家には見当たらない構造のようで、台風の風除けなのか、外敵に対する防壁なのか、はっきりわからないとのことでした。
豊かな海に囲まれた口永良部島ですが、魚屋が一軒も無く、船を持っていない島の人は魚をあまり食べられないそうです。そこで口之島で獲った魚と野菜を物々交換することになりました。
素潜りでいくらでも取れるこのブダイが、
船上生活ではなかなか手に入らない生野菜に化けます。
兼子さんは湾を見下ろせる金峰神社の宮司をなされており、たまたま年に一度の夏祭りの日であったため、正式参拝をさせていただきました。
この湾は、かつて幕末には外国との密貿易にも使われていたという、天然の良港です。
また、野人・大塚さんがかつて片方のエンジンが故障した諏訪之瀬丸で遭難しかけて逃げ込んだ場所でもあります。
金峰神社の鳥居には、なんとゾウがいます。まるでインドのガネーシャ神がそのまま渡ってきたような南国情緒のある造形です。
島に渡った生物種が島ごとに独自の進化を遂げるように、離島では渡来した文化も独自の形で保存され、タイムカプセルを見るようです。
地元の方々の案内で、島の東側にある湯向温泉に連れて行っていただきました。
口永良部島の湯向温泉の内部。 – Spherical Image – RICOH THETA
白くふわふわした湯の花が舞う硫黄泉です。
付近にはヤギよりもシカが多く、屋久島町に来たことを実感します。
口永良部島で出会った人々は皆親切で明るく、未だ活動を続ける火山の脇での素朴な生活の中にも、自然と生きていく一抹の清らかさを感じました。
島の方の話では、大隅諸島の中でも口永良部島だけに黒土があり、果樹が良く育つそうです。かつてヤマハも牧場を作りかけ、その後製薬会社が紫ウコンの栽培地に選定し、多額の投資をして島のインフラ整備をしてくれたそうです。
協生農法の南西諸島モデルを構築する上では、果樹苗を生産できる場所として重要な位置を担う可能性のある島です。
もっと長居したい島ですが、嵐が迫っています。
台風12号の進路を睨みつつ、北へ向かいます。