口之島
- 2018.07.29
- 研究航海
とうとうトカラ列島最北の口之島に着きました。
口之島に住むガイド、浦塘さん(写真右端)に迎えていただきました。
中之島よりも立派な避難港があり、防風フェンスも新調されたばかりです。
すでに夕刻であったため、夜間に港で素潜り調査を行いました。
光量が足りないため海中の写真はありませんが、大型のブダイ、ホウライヒメジ、10頭以上の大小様々なウミガメ、甲殻類など、非常に豊かな海でした。沖に出る突堤を曲がったところでは、1mほどのサメと出くわしました。
翌日は、浦塘さんの案内で口之島の南側をめぐりました。
口之島も火山活動によって隆起した島ですが、白っぽい輝石安山岩が多いです。
海からも白く光る崖が観察できますが、宝島-小宝島の隆起サンゴ礁とは成り立ちが異なります。
(揺れる船上でパノラマ合成したので、写真が少しゆがんでいます)
島南部の柵で隔離された地域に、江戸時代後期に農耕用に導入されて野生化したウシが14頭ほど生息しています。
現在、家畜のウシの原種となった野生牛は絶滅しているため、野生状態のウシの生態を研究するためには世界的にも貴重な集団です。
ライオン型という、肩が高く尻が低い体型をしています。
ウシが採餌している場所は、綺麗な芝生のように刈り込まれていますが、人間ではなくウシによるものです。
ウシ自身は森林を切り開いて草原に変えるほどの力はなく、口之島の環境では人間が草原を作らない限り餌場が減少してしまいます。
ウシが介在することで、草原と森林ということなる生態系を共存させることが可能でしょう。
人間と共存することで保たれる生物多様性の一例です。
野生状態で家畜を育てる「協生牧場」モデルにとっても有用な示唆を得られます。
野生牛は小さな集団ですが、猫の毛皮の色のように、黒牛、赤牛、黒白のブチなどが混生しています。皮膚の色を決定する遺伝子構造が似通っていることが推察されます。
子育て中でもあり少し警戒してこちらを見ています。
回り込もうとしたら、地面を蹴って突っかかってきました。
小型のウシですが、思わず飛びすさって逃げる迫力があります。
動物が闘争モードに切り替わる瞬間は、頭より先に体が反応します。
徒競走でのスタートの動きより早く、怖さを感じる前に、殺気に対して身体が無意識に反応して走り出してしまいます。
殺気満々で放ったモリでは魚に躱されてしまう理由も、このような意識の反射があるのではないかと思いました。
別の場所にいた若い雌二頭は、穏やかにすれ違って行きました。
燃岳の南側、セランマ温泉のさらに下に、海中温泉が湧き出ています。
脇には牧草地が広がっていますが、野生牛ではなく畜産牛のためのものです。
この島でも、農業より子牛の生産が産業として優先されています。
口之島にて、燃岳と麓にある牧草地帯、岩が突き出た海中温泉を見下ろす。 – Spherical Image – RICOH THETA
島の野生動物としては、他にトカラヤギが生息し、ヤギ汁用の肉やペット用(白黒ブチの模様のもの)に輸出されているそうです。
浦塘さんの説明では、タモトユリは口之島の固有種で、口之島にしかないそうです。
ところが、これまでに訪れた宝島や諏訪之瀬島では、現地の人々が「タモトユリがある」と言っていました。
どちらが正しいのかは、きちんと調査しなければわかりませんが、地方名は種の同定が学術的に厳密でないことも多く、それでも生態系をマネージメントできる枠組みが必要です。
今回の経験からは、種同定が間違っていても後からデータベースを修正したり、間違ったままでも有意な情報を取り出せる仕組みを考えるきっかけになりました。
写真はササユリです。