瀬戸内・米子訪問とシネコポータル
- 2021.12.18
- 視察旅行
みなさんこんにちは。社団ナビゲーターの福田です。今年の秋は瀬戸内の島々と鳥取県の米子を訪問しました。
瀬戸内ではすでにシネコポータルを導入されている方々からお誘いをいただいての農園見学。米子では中高一貫校におけるシネコポータルを軸にした教育プログラムに関する現地確認をいたしました。
どちらの現場も「シネコポータル・拡張生態系入門キット」(旧:協生理論学習キット)の冊子を読み込んだ上で招いてくださっており、これは大変ありがたいことでした。今回は二つの現場で感じた共通点と、この経験を踏まえての今後の取り組みについて書いてみようと思います。
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瀬戸内の島で見せていただいたシネコポータルは感動的でした。自分たちが書いたものが確かに届いているという手応えを感じ、またそれがちゃんと機能していることがうれしく、形にしてくださっている方々への感謝の気持ちがあふれました。露地タイプ、プランタータイプの両方を試していただいており、また水循環モデルやつなげて大きくするタイプも実践されていました。
露地タイプの実践
プランター・水循環タイプの実践
つなげて大きくするタイプの実践
つなげて大きくするタイプは体験学習の範疇を超えて十分に収穫可能になっており、協生農法実践マニュアルの中に出てくる生産面に迫る状態でした。
(協生農法実践マニュアル22ページより抜粋)
すぐそばには水田があり、刈り取られた稲がハサ掛けされていました。どなたの田んぼかお尋ねすると、シネコポータルを作られている皆さんの仲間たちが、耕作放棄されていた水田を15年前に復活させ、試行錯誤しながら運営されているとのことでした。私はこの二つの風景から、シネコカルチャーとモノカルチャーの違いをどう考えたらいいのか、この先にどのような探求が可能か、この間に橋をかけることはできるのか、という問いかけをもらったように思いました。
稲刈り後のハサ掛け
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次に訪れたのは米子の中高一貫校です。この学校では中学校から高校への6年間を使って細く長く生態系を学ぶプログラムを開発しており、その軸にシネコカルチャーを据えたいとのご相談でした。すでに実践予定地が用意されており、ここでポータルを作り始めるにあたって事前に伐木や耕転が必要かというご質問をいただきました。
実践予定地
予定地は元々養蚕のための桑畑とその農家の家庭菜園だったのではないかとのことでした。久しく養蚕は営まれておらず、人の手が入らなくなってから15年以上経っていると伺いました。地面を見てみると、多年草の群落はあるものの自然植生には十分な多様性がありました。また日照も雨水もたっぷりあり、既存の樹木が落とす影も適度にあるように感じました。そのため、アクセス路のための草刈りをした後は、このまま場所選びの段階から教育プログラムに組み込んでいくのが面白いのではないかとお伝えしました。
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二つの現場で感じた共通点は、シネコポータルを作る「前」と「後」に関する質問が多いことでした。幸いなことに「作っている最中」に関しては冊子を参考にしての実践が可能なようで、これには安堵しました。
「前」と「後」のことをもう少し考えてみましょう。どうやら食物生産に適した土地は、生産のための手間がかけられない時期には耕作放棄地や更地として存在し、再び手間を掛けられる時期が来ると農地になるという「前」「最中」「後」・・「前」「最中」「後」・・という状態遷移を繰り返しているようなのです。このような循環構造として「前」「後」を見直してみると、「前」と「後」はつまり「最中」と「最中」の「間」という、同じ状態の違う見え方だということがわかります。
「前」と「後」のことを考えている間、協生農法実践マニュアルのある部分が何度も思い出されました。マニュアルの15ページ、植生条件の図の上から二段目「野菜・果樹は少ないが、一年性・多年生の多様な雑草で覆われている状態」という部分です。
協生農法実践マニュアルは業としての協生農法に焦点を合わせていますので、いかに農産物を収穫していくかという「最中」の話が主になっています。しかしここで焦点を収穫の一段階前に戻し「協生農法を成立させうる地表はどんなところか?」という目で見てみると、この図の上から二段目の状態が大きな意味を持ってきます。マニュアルの8ページには「協生農法は、食料生産するための生態系自体を作り上げてしまう農法である」とあります。つまりこの上から二段目の地表は、食料生産が可能なポテンシャルを有する生態系ということになります。
過大な手間を掛けずにこのような生態系を維持できれば、人の手で管理しきれなくなった土地が持つ「間」の時期を荒廃状態で放っておかずに済むのではないでしょうか。休耕地と耕作放棄地の問題。宅地と更地と空き家の問題。税金等が絡んでくる経済上の複雑な話ではありますが、荒れた表土がその近くで暮す人々の心身に及ぼす影響や、周囲の生態系に及ぼすネガティブな影響は無視できません。
シネコポータルは、人が壊してしまった健全な表土を、人の営みによって取り戻すために設計されました。ポータルの構築を通して、生態系との関わり方への様々な扉が開くことを願っており、その経験の集積が健全な表土を取り戻すことへつながると考えているからです。ここでいう健全な表土がつまり、マニュアルでいうところの「野菜・果樹は少ないが、一年性・多年生の多様な雑草で覆われている状態」にちかい状態と言えるでしょう。
(シネコポータル冊子・3ページより)
シネコポータルの実践を通して感知される「健全な表土」は、農業だけではなく、生態系の再導入がありうる全ての遊休地活用において大きな意味があると考えられます。造園、土木、カーボンオフセットなどの領域も含むでしょう。そもそも生態系サービスはこのような健全な表土の力から供給されているわけですから、人間がそこから様々な恩恵を汲み上げるにあたっての最低限の礼儀は、手をつけた上で使っていない土地には生物多様性を確保することでありましょう。
更地や耕作放棄地などが全て穏やかな緑に覆われ、多様性を有する地面になったらどうでしょう。必ずしも農作物を植える必要はありません(植えれば育ちますが)。このような地面を大袈裟な手間を掛けずに維持できたらどうでしょう? これを「更地2.0」と名付け、使われていない土地のゼロ地点をアップグレードするべく、今後3年ほどは活動してみようと目論んでいます。そしてこの地面への理解を助けられるような何かが作れれば、それはシネコポータルを作る「前」と「後」に関する質問にお答えすることになると思うのです。
▼シネコポータルについて
https://www.sonycsl.co.jp/tokyo/12113/
▼協生農法実践マニュアルについて
https://www.sonycsl.co.jp/news/3802/
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