研究航海第二レグ:熊本ー天草
- 2019.06.15
- 研究航海
第二レグが始まりました。
第一レグの終着地は鹿児島県の谷山港でしたが、船長が別クルーズで船を天草に回してくれていたので、今回は熊本から入ります。
ちょうど梅雨の真っ只中で、阿蘇の外輪山には雲と霧がかかっています。
阿蘇山は今年に入っても噴火が続いていましたが、地元の人たちはいたって平然と暮らしていました。
阿蘇カルデラの外輪山より見下ろした内部。市街地の外は農地で埋め尽くされています。
今回のクルーのつてで、阿蘇のカルデラの中の森に棲み自給自足の生活や新しい社会の仕組みを構想・実践している吉田ケンゴさん・ノブさんを訪ねました。
息子さんのレイさんとは、第一レグの宝島でお会いしています。
ケンゴさんはなんでも手作りにはまってしまうらしく、太い竹で作ったアフリカの太鼓・ジェンベがありました。
何年経っても割れない竹材を作る秘訣を教えてもらいました。
積まれていたのは、カラムシの乾燥した茎。
細く割いて繊維にしていました。
外には何棟もテントがあります。
インディアンが使うようなグランピングテント。
何重にも防水塗料を塗り重ねて、中に入ると漏れてくる光が神秘的な夜空のようです。
実際に、この中でインディアンに伝わる伝統儀式「スエット(蒸気を炊いてサウナの様にし集団瞑想する)」を行い、色々なインスピレーションを得ているようです。
隣にあるドームテントは炊事場。
中には自作のかまどやロケットストーブがありました。ロケットストーブは性能が良く評判で、販売もしているそうです。
ケンゴさん・ノブさんが住む母屋は、8年前に東北の震災後に引っ越してきて建てたもので、老朽化していますが様々な素材や組み合わせ方の実験をしていました。
海苔の養殖用に海に立てられていた竹を組み上げた軒の骨組み。安価で再利用・継ぎ足し可能な丈夫な紐で縛り竹釘で止めてあり、徐々に雨で腐蝕して行きますが、海水に浸かっていた部分は朽ちにくく強度が高いまま残っていました。
斜面の中央部を流れる小川から、竹筒で水を引いて炊事などに使っています。
ここの住み方には下水管というものがなく、台所の排水などはタライにためてノブさんがその都度キッチンから運び出し表土に撒くことで、いわゆる有機物や生ごみが溜まって腐敗した場所を作らない様にしているそうです。
ケンゴさんたちの母屋の天井には、ノブさんが編んだ巨大なドリームキャッチャー。ハンモック並みの強度があり上側に乗れるそうです。
現在建造中の、永久水洗トイレ。汲み取りが必要なく、排泄物は微生物タンクで処理した後、花壇に徐々に浸潤して消滅するそうです。表土側のみに汚水が浸潤し、地下水側には浸透させないという浄土の循環に従った作りになっています。
友人のつてでもらったという太陽光パネル。電気は全て自家発電です。
電動アシストつき自転車の修理業者からもらったという大量のリチウムイオンバッテリー。故障として廃棄される電動自転車の大半は、24本あるこの様なバッテリーのたった一本の液漏れなどによる故障で、残りの23本のバッテリーは生きているため、再利用可能だそうです。
電動自転車を動かすほどパワーのあるバッテリーを、改造したヘッドライトに接続して夜の森を歩いたり建築工事をするそうです。
頭に装着するヘッドライトですが、車のヘッドライト並みに明るい強力なライトでした。
南向きの斜面になっているこの森には、様々な有用植物が自生しています。
道の硬い場所に生えるオオバコ。
お馴染みシバグリの横にはヤマブドウのつる。
日陰はサンショウ天国になっていました。
口に含むと唇までしびれる様な強烈な実が鈴なりで、茎にも大きな棘が発達しています。
同様に日陰を好むコゴミ(クサソテツ)。ゼンマイが取り放題だそうです。
他に、ヤマウドやニラも元気に育っていました。
深い森の土なので通常の野菜品種は育ちにくそうですが、知り合いの自然農法の方々が葉境期で困る時期にここでは山菜に満ち溢れているそうです。
ポットに挿し木苗で育つイチョウやブルーベリー。阿蘇は冬場はかなり寒いそうで、プラムやベリー類を導入しようとしていました。畑仕事はあまり好きでなく、狩猟採集のような生活スタイルで有用植物が勝手に育つような環境を作りたいというケンゴさんの挑戦は続きます。
今年からは在来種の馬を飼い始めたそうです。地形を利用して囲った馬場の中に、二頭オスメスの小型馬を世話しています。
全く調教されていない馬だったらしいのですが、ケンゴさん・ノブさんがコミュニケーションを積み重ねて今では人に懐いているように見えます。
オスは毛並みも良くよくエサを食べますが、メスの方はいつも腹を下していてやせ細っており、毛艶もよくありません。
ストレスや感染症などによって腸内細菌叢がうまく機能していないのかもしれません。漢方の処方を活用して、与える植物を変えたりしてメスを元気付けようと取り組んでいるそうです。
貯蔵職としては、梅干しがぎっしり。400キロ以上漬け込んでいます。
その梅干しを10ヶ月間ぐらい間欠的に火にかけて炭化しすりつぶした妙薬をいただきました。
耳かき一杯程度の摂取で滋養強壮、疲労回復、整腸など様々な効用があるそうです。航海調査の体調管理にも役立つことでしょう。
手作りの鶏舎で雨宿りするウコッケイたち。最初はカラスに襲われたりしたそうですが、今ではこの森はすっかり彼らの縄張りです。
夕食には、たまたま宝島より送られてきた魚があったので、この森の中の生活としては極めて例外的に大量の刺身になりました。
冷蔵庫がないので、鮮度の良い魚が手に入った時は出来るだけ新鮮なうちに刺身で食べるそうです。
私(舩橋)は助けを借りてカツオの藁焼きを作成。その場にあった炭と藁で、非常に美味な藁焼きに仕上がりました。
雨も激しくなり、今日はケンゴさん・ノブさんの森に泊まっていくことにしました。
ドームテントの中は広く、天井も高く皆で車座になってお茶ができます。
夜は闇に浮かび上がる幾何学模様が綺麗です。
翌日は、調査船が待つ天草の港に向けて移動しました。
道中、ケンゴさん曰くカレーにすると美味だというカラムシの若草をゲット。
九州は柑橘類の宝庫です。道の駅などでは必ず10品種以上の柑橘類が並んでいます。世界でもこれほど柑橘類の品種改良が進んだ地域はないでしょう。
突然大きなお腹の石像が…
デコポンの別名が不知火だというのは前回宮崎を訪れた時に知っていましたが、品種名が「不知火」で商品名が「デコポン」であるという記述は初めて見ました。
おそらく熊本と宮崎はこのデコポン=不知火の元祖を巡ってライバル関係にあるのでしょう。
その不知火というのも、この場所=不知火海からの命名。
アサリやワタリガニやヒラメが拾える広大な干潟が広がっています。
地図で調べると、不知火の対岸には広大な農地が。干潟に突き出した場所で耕して肥料を投入するモノカルチャーを行なっているので、沿岸生態系への影響が懸念されます。
案の定、農地からの肥料・農薬などの流出による不知火海の生態系破壊を調査しているNPOがありました。
生態系の自己修復機能が、環境負荷を削減しても自律的に回復しないレジームシフトに陥っている危険性があります。
不知火海の農地に近い向こう側では、確かに流出の影響と思われる海面の色の差があり、対岸からの流出が閉鎖水域にとどまっていることが予想されます。
対岸の農地側が赤茶けている不知火海。
不知火海に面した河川の河口では、狭い場所でもどこも農地で埋め尽くされていました。不知火海にはダイレクトに肥料・農薬が流出する位置です。
調査船が停泊している天草フィッシャリーナに到着しました。
静かで設備も新しく、よく整備されたマリーナです。
一年ぶりに調査船ヨット、バーゴウィナーに帰還しました。
すでに船長が先行して整備を始めています。
荷揚げをしていると、隣の豪華クルーザーから夕食に招待されました。
非常にリッチな方々で、ヨットを数隻保有し悠々自適な生活をしていました。一方で、食料生産や農業の問題についてはほとんど関心を持っていないようでした。
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