全ての生命が協力しあって生きる新しい文明のかたち

Synecoculture(シネコカルチャー)とは、地球の生態系が元々持っている自己組織化能力を多面的・総合的に活用しながら有用植物を生産する農法です。これまでの慣行農法・有機農法・自然農法、各地の自然生態系、そして人間によって部分的に多様性を増した生態系などを参考に初期実験を行い、農学と生態学において今まで異なっていた生産性の定義を統合する科学的定式化と検証を重ねてきました。

これまでとは桁違いの規模で生物多様性を活用しながら、人間活動そのものを環境回復の起点に変えて、人と自然がともに発展していく社会を築きます。私たちの文明が今後百年、千年と続いていくためには、人類が一方的に自然を搾取する存在から、生態系構築の要となる存在へと転換し、食・環境・健康の良循環をつくらねばなりません。人類の発展か、環境保護かの二元論を超えて、双方の正義を包摂する第三の道としてシネコカルチャーを提唱しています。

なぜ、シネコカルチャーなのか

生産性と生物多様性のトレードオフ

現代的な農業の風景

農業をはじめとした食料生産は、これまで特定作物の収量を高めるために、その作物の「生理的な最適環境」をつくり出すことを中心に発展してきました。これは収量や収益の予測可能性・効率性を高める一方で、圃場をその作物に合わせて単一化するため、生産の強化とともに生物多様性を含む生態系への負荷が増えるという構造を抱えています。
たとえば化学肥料・農薬を用いる慣行農法、投入材を抑える有機農法、データで精密に制御する精密農業といった多様な方法がありますが、いずれも基本的には作物の「生理最適」に寄せるモノカルチャー的な発想に立っており、生産性を高めようとするほど、生物多様性を含む生態系の機能を損なうというトレードオフから完全には抜け出せていません。

農法生産性・環境負荷
慣行農法化学肥料・農薬で短期的な高収量を実現するが、環境負荷が高い
有機農法投入材を減らして環境保全を目指すが、単作による収量が低くなる
精密農業生理最適が前提なので、最新技術で効率化しても限界がある

人間の体と食生活のミスマッチ

困惑する腸

人間の遺伝子と代謝システムは、数百万年にわたる狩猟・採集生活への適応過程を経て、進化してきました。30万年ほど前に現生人類の骨格が確立して以来、基本的な構造は変わっていません。ところが、約1万年前に農耕が始まると、食生活は一気に、限られた作物に頼る方向へと傾きます。

単一の作物や少ない品目に偏った生産・流通が続くと、カロリーが満たされたとしても微量栄養素の不足・バランスの偏りを起こしやすくなり、人間の生物学的な仕組みと食生活との乖離が、肥満・糖尿病・心疾患といった現代的な慢性疾患のリスク要因となっています。

史上6度目の大量絶滅を回避せよ

従来の慣行農法は、単一栽培で劣化した生態系のはたらきを、化学肥料や農薬といった外部投入で補うアプローチです。ところが、こうした投入に依存する農業がもたらす窒素・リン・炭素などの物質循環の破綻は、すでに地球の環境容量の限界に達していると指摘されています。モノカルチャー前提の生産を拡大し続けると、人間活動による負荷が自然の回復力を超えてしまい、2045年ごろに地球規模での生態系の崩壊(レジームシフト)に達するおそれがあると報告されています。つまり、現在の延長にある生産拡大だけでは、この転換点を避けるどころか、むしろその到来を早めてしまう可能性があります。

拡張生態系で持続可能な文明を拓く

自然生態系(左)と拡張生態系(右) @Sony Computer Science Laboratories, inc.

シネコカルチャーの基礎となる原理に「拡張生態系」があります。拡張生態系とは、失われつつある生態系を再生するだけでなく、人間の積極的な介入によって生物多様性を高め、目的に応じて自然状態を超え機能が高まった状態を指す概念です。生態系を根底から支える植物を主に活用することで、様々な価値を取り出しながら多様な生態系を構築・管理できることがわかっており、それらを豊かに活用する経済基盤が真に持続可能な社会を実現する鍵になると考えています。

関連コンテンツ

Synecoculture™による持続可能な農業

ブルキナファソ東部で女性農業組合によって運営されるシネコカルチャー農園

拡張生態系の理論をもとに植物多様性を増やして生態系そのものをつくる農法へ転換し、食料生産と生態系機能を同時に高めようとするのがSynecoculture (シネコカルチャー)です。人為的に定植した有用植物と自然発生する草木を取り込み、作物の生育に生態系が自己組織化する性質を活用した結果、無耕起・無施肥・無農薬による栽培を実現します。

小面積での実証では、従来の慣行農法を上回る生産性・収益性、長期的な健康保護効果で知られる二次代謝産物が高くなる傾向が確認され、食・環境・健康のトレードオフを乗り越えうる持続可能な農法として位置づけられています。

Synecocultureの特徴

無耕起・無施肥・無農薬

人為的に定植した有用植物と自然発生する草木を取り込み、作物の生育に生態系が自己組織化する性質を活用した結果、無耕起・無施肥・無農薬による栽培を実現します。

生産性と環境回復の両立

砂漠化が深刻なアフリカ・ブルキナファソの実証実験では裸地化していた環境が、3年ほどで約500㎡の食用植物に満ちた密林に変貌し、慣行農法の約50 ~200倍の収益性を記録しました。

おいしく、健康になる

拡張生態系の中で育った作物は、えぐみや苦味が少なく、生で食べられてこなかった野菜も生で食べることができたり、長期的な健康保護効果に関係する栄養素を多く含むことがわかっています。

気候変動に強い

シネコカルチャーなどの拡張生態系では、気温や降水などの変動が大きいほど植物多様性がむしろ増えていく性質が確認されます。多種類の作物がリスクを分散し、ある種が気象条件に合わなくても他の種が収量を支えるため、気候変動に対するレジリエンスを高めることができます。

栽培する場所を選ばない

混生・密生した多様な植物がそれぞれ異なる環境条件をカバーし、全体として高い適応力を発揮するため、ビルの屋上から砂漠化した地域まで、場所を問わずに作物を育てることができます。

直感を生かした土壌管理

「この土はいい状態だ」と感じる場所は、実際に微生物の活動が活発・多様な傾向にあることがわかっています。高価な分析機器だけでなく、シネコカルチャーの実践を重ねることで、人間の優れた直感を磨きながら土壌を管理していくことができます。

小規模農家から革新を起こす

2ha以下の小規模農家が世界人口の1/3〜半分、国によっては農地面積の9割を占めると報告されています。また小規模から中規模の農家で主要な農産物と栄養素の最大8割が生産されていることも示されています。従来の外部投入型・単一栽培の農法から、環境機能そのものを高めるSynecocultureのような環境構築型の農法へと転換していけば、農業と環境負荷のトレードオフを乗り越えていく現実的な解決策になり得ます。

小規模農家にやさしいコスト

Synecocultureは、初期の植栽・種苗導入と更新用の一部種苗を除き、耕起・施肥・農薬といった外部投入を常に追加する設計ではありません。収穫用のハサミや定植用の小さな道具で対応でき、トラクターなど耕起前提の初期投資も不要になるため、小・中規模農家との親和性が高い農法です。

Synecocultureを始める

Synecocultureを始めるための基礎、実践、応用までを網羅的に学べるマニュアルを開発しています。家庭菜園から商業農家まで幅広い目的に対応しています。

拡張生態系が持つ広範な可能性

拡張生態系の活用は食料生産にとどまりません。ヘルスケアや都市開発などのさまざまな領域に展開することにより、複数のスケールで地球生態系の安定化に寄与するポテンシャルを秘めています。

拡張生態系 × 都市開発

人や機能がより集中する都市では、自然との関わり方が大きく変わろうとしています。生物多様性や生態系への関心は高まっており、さまざまな取り組みが進んでいますが、その多くは「生態系は人間が守る対象」という一方向の見方に留まりがちです。
拡張生態系に基づく緑地に転換すると、景観としての機能はもちろん、足元に存在する土壌微生物・鳥や昆虫などの動物との繋がりが活発になり、単独の緑地が大きなネットワークの一部として働くようになります。都市全体で生態系の様々な価値を引き出すことができます。

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拡張生態系 × ヘルスケア

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