守るべき生態系 を超えて

私たちは「都市」を、拡張生態系が広がるうえで大切なフィールドの一つと考え、研究と実装を進めています。人や機能がより集中する都市では、自然との関わり方が大きく変わろうとしています。生物多様性や生態系への関心は高まっており、緑化やビオトープによる景観保全、動植物園での遺伝資源の保全など、さまざまな取り組みが進んでいます。しかし、その多くは「生態系は人間が守る対象」という一方向の見方にとどまっていないでしょうか。

拡張生態系とは、「積極的な人間の介入によって自然状態を超え、目的に応じて生態系機能を高めていく状態」をめざす考え方です。ネットワーク理論や複雑系科学の知見を土台にして、生態系が自ら秩序をつくる流れ(自己組織化)の中で、人間は「壊す/守る」のどちらかではなく、「拡張」する主体として捉え直されます。

自然生態系(左)と拡張生態系(右) @Sony Computer Science Laboratories, inc.

要としての表土 インターフェイスとしての植物

では都市において、人間と生態系を結ぶ“要”は何でしょうか。その答えの一つを地上数十cmの表土に見いだしています。表土は雨を受け止め、熱を調整し、その過程で多様な微生物が生息できる環境を育み、結果的に生物の免疫機能にも寄与1することが分かっています。 人間が表土そのものを生み出すことはできませんが、生態系を根底から支える植物を主に活用しながら、インターフェイスに据えることで、その機能を戦略的に“拡張”することは可能です。

たとえば「混生・密生」を基本に、食用・薬用含めた植物の収穫や管理を行うと、ビル屋上や住宅に囲まれた土地のような人工環境でも

  • 土壌微生物の多様性と活動性が自然環境以上に高まり、機能的な表土形成が可能なこと2
  • そのような環境で育った作物・ハーブは慣行農法と比べてファイトケミカル等の二次代謝産物が豊富になること3

が明らかになっています。このような生態系自体の持つ機能をより高めるべく、現在は、グローバルな生物種データと現地・周辺生態系の観測データも統合することで、植物・微生物・動物(昆虫や鳥類など)といったマルチスケールな多様性や相互作用ネットワークを科学的に扱うアプローチ4の確立を目指しています。


この視点は、日本のように都市化が成熟した国で起きている問題だけにとどまりません。世界的に見ると、南・中央アジアでは約2.8倍、アフリカのサブサハラ地域では約3.0倍の人口増加が2050年までに見込まれ、世界人口の約70%が都市で暮らすと推定されます56。つまり、同じような課題が世界中で広がると考えられます。

一方、都市は地球上でも特殊な環境で、産業や文化が集まることによる人と人の相互作用の力(シナジー)といった社会側の視点だけでなく、最近の生態学研究7や書籍8では、都市環境が生き物の「適応」や「進化」の動きを活発にすることがあると報告されています。このような背景において、我々の研究で明らかになった価値を具体的なステークホルダー・コンテクストで実装するための支援を、株式会社SynecOがグローバルに展開しています。

見過ごされがちな街路樹の役割や足元に隠れた表土、降り注ぐ雨までスケールを超えて、身近な生命にふくまれた無数の情報を引き出しながら、より豊かな意味をもたらす回路をどう設計できるか。これこそが、都市で拡張生態系を進めるときの最も重要な視点だと考えます。

森ビル株式会社と株式会社SynecOによって麻布台ヒルズに拡張生態系 “GreenPool”が構築・公開されました。後日プレスリリースが予定されます。

参考文献:

  1. Xin Sun et, al. “Harnessing soil biodiversity to promote human health in cities”, npj Urban Sustain 3, 5, 2023 ↩︎
  2. M Funabashi. “Living in a hotspot of city and biodiversity. The case of synecoculture.” BIODIVERCITIES BY 2030 TRANSFORMING CITIES WITH BIODIVERSITY. p252-253. ↩︎
  3. K Ohta et,al. “Secondary Metabolite Differences between Naturally Grown and Conventional Coarse Green Tea”, Agriculture 2020, 10(12), 632 ↩︎
  4. Yoshikawa et,al. “Augmentation of urban ecosystems:
    Exploration of new keystone species beyond flagship species”, Ecosummit2024 Oral Session ↩︎
  5. Bernardo et,al. “Global priority areas for ecosystem restoration”, Nature, 2020 ↩︎
  6. Michail et,al “A Synthesis of Global Urbanization Projections”, Urbanization, Biodiversity and Ecosystem Services, 2013 ↩︎
  7. Alberti et,al. “Global urban signatures of phenotypic change in animal and plant populations”, Proc. Natl. Acad. Sci, 2017 論文 ↩︎
  8. Schilthuizen “Darwin Comes to Town: How the Urban Jungle Drives Evolution” 邦:都市で進化する生物たち ↩︎