Project : 生態系機能関連の指標開発
私たち人間の生存は、生態系がもたらす多様な機能とサービス(ex. 食料供給、水の浄化、気候の安定化、精神的豊かさなど)に依存しています。しかし、近代的な生産システムの拡大により、生態系の複雑な均衡は崩れつつあります。こうした状況に対し、私たちは「拡張生態系(augmented ecosystem)」という新しい概念をもとに、人と自然が相互に豊かさを高め合う社会の実現を目指しています。拡張生態系とは、人間が多様な生物を意図的に導入し、自然の自己組織化を促すことで、生物多様性を自然状態以上に高めて、生態系機能・サービスを向上させた状態です (Funabashi 2018)。この理念のもと、私たちは社会のあらゆるステークホルダー(ex. 企業、行政、研究機関、市民など)と連携しながら、都市や農村における拡張生態系の構築を進めています。
一方で、生態系の複雑性ゆえに、拡張生態系構築の活動によって「何が」「どのように」達成されているのかを、システム全体のレベルで把握し解釈することは容易ではありません。だからこそ、複雑な社会活動と生態系の因果関係や多層的なつながりを、異なる視点や尺度で分かりやすく示し、関係者の意思疎通や意思決定を支える可視化技術が必要とされています。
たとえば、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)では、企業や自治体が自然資本への依存や影響を定量的に把握し、投資・経営判断に反映できるようにするための枠組みづくりが進められています。また、SBTN(Science Based Targets Network)では、気候や水、生物多様性といった領域ごとに科学的根拠に基づく目標設定を行う際、地域や業種の条件に応じて多様なデータを統合し、可視化して共有する仕組みが重視されています。
これらの国際的な取り組みはいずれも、「見える化」が単なるデータ表示ではなく、複雑な自然と社会の関係を理解し、異なる立場の人々が共通の判断材料を持てるようにするための基盤であることを示しています。生態系サービス(たとえば水の浄化や大気の浄化など)の分野でも同様に、データを整理してわかりやすく提示するダッシュボードや地図表示の仕組みが、関係者の合意形成や持続的な資源管理に大きな役割を果たしています。
なぜこうした技術が必要なのでしょうか?それは、自然と人間の関わりが極めて多くの要素で成り立っていて、どの活動がどの成果を生んでいるのかを直感だけで捉えるのが難しいからです。たとえば、植物の種類、土壌の状態、気候、人的な管理方法──これらすべてが影響しあって、地球規模から地域レベルまでの生態系の機能が動いています。そこで、見える化や統合的な評価技術を使うことで、「どの活動がどれだけ意味を持っているか」「どこに手を入れれば改善できるか」が明らかになります。
当社では、「見える化できる指標をつくること」と「その指標を使って実際に評価する仕組みを作ること」という2本柱で技術開発を進めています。たとえば、ひとつの事例として、炭素の「貯める量(ストック)」と「移動・変化する量(フロー)」を一緒に捉えてシステムとして可視化する仕組みがあります。これにより、農地の慣行的な運用と、より多様な生物を活用した運用とで、どちらが大気中からどれだけ炭素を取り除けるかを比べられます。もうひとつの事例では、都市の生態系で、植物の多様さや土壌の状態など、数百もの変数を横断的に分析し、目的や環境に応じて適切な指標を選び出して統合する枠組みを開発しました。このように、現場で必要なデータを整理し、分かりやすく判断できるようにしていくことで、地球規模の課題から地域の自然管理まで、拡張生態系の価値を明確に示し、実際の取り組みをスムーズに進める支援をしています。
Funabashi, Masatoshi. “Human augmentation of ecosystems: objectives for food production and science by 2045.” npj Science of Food 2.1 (2018): 16.
Sasaki, Takahiro, Godai Suzuki, and Masatoshi Funabashi. “Integrated Stock and Flow Dynamics for Comprehensive Carbon Offset Evaluation A System Dynamics Analysis of Natural and Farming Ecosystems.” 2024 World Conference on Complex Systems (WCCS). IEEE, 2024.
Ohta, Kousaku, et al. “Open systems navigation based on system-level difference analysis-case studies with urban augmented ecosystems.” Measurement: Sensors 23 (2022): 100401.
The Taskforce on Nature-related Financial Disclosures (TNFD) Home Page: https://tnfd.global
Science Based Targets Network (SBTN) Home Page: https://sciencebasedtargetsnetwork.org/