Project : ヘルスケア関連の研究と展開
生態系の機能には、安全な食料・水の生産、気候の調整、自然災害の緩衝、表土の形成、生物多様性の保全、疾患の抑制効果、文化的な価値の提供など、さまざまなものがあります。
私たちの生活はこの生態系機能によって支えられています。生態系の破壊を続けてしまうと、様々な深刻な問題に繋がります。具体的には食料不足・水不足、異常気象、自然災害の激甚化、表土流出、生物多様性の低下による遺伝資源の消失、感染症の発生リスク上昇、免疫系が関連する慢性疾患のリスク上昇、文化的活動の消失、資源を巡る戦争などです。
ヘルスケアプロジェクトではこの中でも”免疫系が関連する慢性疾患のリスク”という部分に注目し研究をしています。免疫系が関連する慢性疾患とは、具体的にはアルツハイマー型認知症やパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患、リウマチ、アレルギー、脳卒中や心筋梗塞の原因となる動脈硬化などです。これらは生活習慣病とも呼ばれ、原因が外から来ている感染症と違って内部システムの制御が崩れることによって起きる内因性の免疫関連疾患です。内因性の疾患は病理が複雑なので根本的なアプローチが難しいという特徴を持っています。人の免疫システムが正常に機能するためには腸内細菌叢の多様性や摂取する食品中の栄養が重要であることが明らかになっています。どういう食事をするのか、どういう環境微生物がいる空間で過ごすかなどの文化や社会構造によって免疫関連疾患の発症リスクが大きく変化します。
近年では、免疫関連疾患には食事内容や運動習慣などの生活習慣やストレスマネジメントに対する具体的かつ個別化したアプローチを行うことで症状が改善することが報告されています(1, 2)。こうしたアプローチを行う上で生態系の機能を活用することが効果的であることが分かってきています(3, 4)。こうした仕組みの社会実装を研究することで、人と社会の健康や未来をより良いものにできると考えています。
実際に東京都日野市の介護福祉施設である株式会社iMAReさんと一般社団法人シネコカルチャーの共同研究で、生態系の機能と個別化されたリハビリテーションを組み合わせることにより、軽度認知障害や認知症の患者さんを含む高齢者において免疫系のバイオマーカー(ホモシステイン)と認知機能(MoCA)の有意な改善が起きることが確認されています(4)。また、脳卒中の患者における運動機能の改善やパーキンソン病患者の運動機能の改善についても報告されています(5)。この仕組みはiMAReさんによってビジネス化され(6)、免疫関連疾患の予防を目指す社会装置として社会実装を行う段階に来ています。生態系の機能とデータ分析を活用することにより、人と環境の健康を改善する社会装置となる可能性があり、社会実装に関する研究を行なっています。
1) Bredesen DE. Reversal of cognitive decline: A novel therapeutic program. Aging (Albany NY). 2014 Sep; 6(9): 707–717. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4221920/
2) Bredesen DE et al. Reversal of Cognitive Decline: 100 Patients. J Alzhe Dis & Parkin. https://www.omicsonline.org/open-access/reversal-of-cognitive-decline-100-patients-2161-0460-1000450-105387.html
3) Roslund MI et al. Biodiversity intervention enhances immune regulation and health-associated commensal microbiota among daycare children. Science Advances. Vo;. 6, No. 42. 14 Oct 2020. DOI: 10.1126/sciadv.aba2578. https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aba2578
4) Masatoshi Funabashi. Living in a hotspot of city and biodiversity. The case of synecoculture. BIODIVERCITIES BY 2030 TRANSFORMING CITIES WITH BIODIVERSITY. p252-253. http://proyectos.humboldt.org.co/biodivercitiesby2030//book.html
5) Kawaoka T et al. Open Complex Systems Approach Utilizing ICT to Address Immune-Related Diseases in Aging Society. https://www.scitepress.org/PublicationsDetail.aspx?ID=3hA3Vi2eTbA=&t=1
6) iMedit, https://www.imare.co.jp/imedit