Synecocultureマニュアル
4. 応用
4-1. 稲作との組み合わせ
非耕起、無施肥、無農薬の水田の乾期にシネコカルチャーを行うことで、産物の増加と土づくりを両立する。
4-2. 家畜の導入
シネコカルチャー農園に共存する動物相の一環として、多種多様な家畜が導入可能である。 その条件としては、植物と同様に、外部から人工的な飼料や薬剤を持ち込まず、 その地の生態系で自活する野生動物として家畜を扱うことが基本となる。
特に乾燥地の生態系では、家畜や野生動物の大規模な移動によって草原生態系が再生することが知られており、その中にシネコカルチャーを組み合わせて、局地的により多様性と有用性の高い生態系を構築することが原理的に可能である [舩橋2025] 。
養蜂は小規模でも実施でき、シネコカルチャー農園と相乗効果が高い。 シネコカルチャー農園の多種の野菜・果樹の花が蜜源植物になり、受粉効率と栄養価が高まるだけでなく、 シロツメクサ(クローバー)やレンゲ、ウレンボ(ヤブガラシ)などの野草も蜜源植物としての価値を高めることができる。 養蜂の導入により、花を咲かせる野草・ハーブ類の活用価値は格段に上がり、植生戦略に大きく影響する。 セイヨウミツバチは飼育法が確立しているが、薬剤なしの条件下では脆弱になり得る。 ニホンミツバチなどの野生の在来種の導入が望ましい。 シネコカルチャーによる家庭菜園と養蜂のセットは、個人でも地域の生物多様性に大きく貢献できる方法である。
ニワトリやキジなどの鳥類は、農園の野草や昆虫相を餌として育てるが可能。シネコカルチャーの産物の加工品の余りも餌に利用できる。夜間にイタチ、タヌキ、ネコなどの天敵から隠れられる小屋があれば良い。
羊、山羊も野草やハーブ類を中心に飼育が可能であり、使い方次第で草管理の一端を担わせることもできる。
豚、牛などの大型家畜は、地面を掘り起こしたり踏み固めたりしてしまうため、野菜を生産しているシネコカルチャー農園には向いていないが、果樹や多年草を中心として生産している農園には副産物として共存できる。
大型家畜を中心に生産するには、原生林と林縁の草地など餌が豊富な地形を柵で囲った野生の牧場を構築する方向で考える必要がある。 植林などで単一化した山地であっても、クリやジネンジョなど餌となる植生を増やすことで環境構築が可能となる。
農園周囲の水路・河川・湖沼・海洋における魚介類も、総合的に活用すべき産物に入る。
4-3. 病院介護施設との連携
病院や介護施設等の傍にシネコカルチャー農園を作り、入院患者、入所者の健康回復を食生活の面から根本的に支える。 東京都の介護施設に導入した例では、統合的なリハビリテーションプログラムにシネコカルチャー農園の訪問・作業や産物の料理・摂取を組み合わせることで、認知症をはじめとする免疫関連性疾患に顕著な改善例が報告されている [Funabashi 2022] [Kawaoka et al. 2025] 。
4-4. 都市部の緑地設計
シネコカルチャーおよびより広義の拡張生態系は、都市部における食料生産、ゲリラ豪雨・ヒートアイランドの緩衝、空気の清浄化、憩いの場や文化の形成など、各種生態系サービスの供給や維持にも貢献する [Sony CSL] [舩橋2025] 。 特に東京都内で行われた実験では、屋上庭園のように大地から隔離された場所でも、自然生態系以上の植物種多様性や土壌微生物の多様性が実現可能であることを示している [Funabashi 2022] 。 2025年時点で東京都内で一般に公開されている場所としては、麻布台ヒルズや日比谷公園内にシネコカルチャーの展示が行われている。
4-5. 先住植物の活用
竹や笹などの先住植物は従来農業をするうえで排除すべき雑草と見なされてきたが、すでにその地に適した生態系を築いてくれている側面もある。 その特性をうまく生かすように植生計画を構築すればよい。 竹や笹は日本の放置された山林に多く、放っておけば根を張り他の植物を駆逐するが、適度な共存は生物多様性を高め、境界では他の植物の成長を促す作用もある。 生活資材、漁具、お茶などの産物としても活用可能である。
4-6. プランタ栽培
シネコカルチャーの原理を応用したプランタ栽培。すでに自然状態で土壌構造の形成された山林などの表土の土を用いて、無施肥無農薬でプランタ栽培をする。
自然状態と違って、地温などの土壌環境の恒常性が維持しにくいため、土壌内部に介入しない完全自然循環で行う事は未だ実現できていないが、原理を応用して生態学的最適化状態に近い野菜を作ることは有る程度可能。
4-6-1. プランタ栽培の方法
土壌の恒常性を最大限維持するためになるべく大きめのプランタを用意し、山林など自然状態で土壌構造の形成された土を盛る。 その上に種や苗を植えて混生密生状態で栽培する。 表面に刈り草の粉末など自然由来の植物性有機物を載せる程度であれば行っても良い。 山の土、竹やぶの土、多年草群落の土、草原の土など、 土壌構造の形成を担う植性の違いごとにどのような影響が出るかを観察し、利用する。
シネコカルチャーの科学的な原理である拡張生態系をプランタ規模で体験できる入門キットとして、「シネコポータル」のマニュアルが公開されている [Syneco Portal] 。
警告
土壌の採取には、地主の許可が必要。また、国立公園内などでは土壌の採取が禁止されている場合がある。

4-7. 市民科学との連携
現在、教育機関の実習や企業の CSR として、各地で生物多様性の記録活動が行われている。 シネコカルチャー農園は生物多様性ホットスポットを構築することが可能であり、地域の生物多様性に貢献するとともに、シネコカルチャー農園の記録を生物多様性記録として活用することが可能である。 小中学校における理科・環境教育の教材としても活用でき、全国各地に実践例がある。 シネコカルチャーの実践者との情報共有と、生物多様性データベースの構築を統合したweb アプリケーションがSony CSLより提供されている [Sony CSL] 。
Tip
シネコカルチャー農園内から、レッドデータリストに掲載されている希少種の昆虫が発見された例がある。 シネコカルチャーは、ソニーグループ株式会社の CSR 活動やサステイナビリティーレポートに登録されている。

4-8. 大規模機械化モデル
広大な耕作放棄地を効率的に管理したり、先進国における経済・技術水準や農業従事者の割合に適した生産性を上げるためには、シネコカルチャーの大規模化・機械化が有効であると予想される。 機械化は、シネコカルチャーの定義と原則の遵守に加えて、機械・技術を導入することでより複雑な生態系を効率的に管理できる場合のみ許容される。 例えば、シネコカルチャーの管理作業のうち、種苗の定植、草管理、収穫の部分が機械化の対象となり得る [Ohtani et al. 2022] [Aotake et al. 2025] 。 大規模化にあたっては、収穫や管理の効率化に適した 植生・配置・産物の種類・収穫法 などの組み合わせの創出が必要である。

