シネコカルチャーとは
全ての生命が協力しあって生きる新しい文明のかたち
シネコカルチャーは、生態系が自己組織化する性質をさまざまな人間活動の基盤に据える新しい文明のパラダイムです。これまでとは桁違いの規模で生物多様性を活用しながら、人間活動そのものを環境回復の起点に変えて、人と自然がともに発展していく社会を築きます。私たちの文明が今後百年、千年と続いていくためには、人類が一方的に自然を搾取する存在から、生態系構築の要となる存在へと転換し、食・環境・健康の良循環をつくらねばなりません。人類の発展か、環境保護かの二元論を超えて、双方の正義を包摂する第三の道としてシネコカルチャーを提唱しています。
なぜ、シネコカルチャーなのか
生産性と環境破壊のジレンマ

農業をはじめとした食料生産は、特定の食物の生産性を最大化する(すなわち生態系を部分最適化する)モノカルチャーなアプローチです。収量・収益の予測可能性や効率性を高める一方で、生産すればするほど生態系が壊れていく負の側面を含んでいます。
たとえば農業の分野では、化学肥料や農薬を使用する慣行農法、化学肥料や農薬の使用を極力抑えながら自然の力を活用して作物を育てる有機農法、データに基づき農作業を効率化して生産量や品質の向上を目指す精密農業など、さまざまな農法が実践されてきました。しかし、どの方法も生産性と環境負荷のトレードオフからは抜け出せておらず、根本的な問題解決には至っていません。
| 農法 | 生産性・環境負荷 |
|---|---|
| 慣行農法 | 化学肥料・農薬で高収量を実現するが、環境負荷が高い |
| 有機農法 | 環境に優しいが、収量が低く、人口増加に対応困難 |
| 精密農業 | 最新技術を使っても収益向上はわずか1-3%に留まる |
人間の体と食生活のミスマッチ

人間の遺伝子と代謝システムは、数百万年にわたる狩猟・採集生活への適応過程を経て、約30万年前に形成されました。以来、基本的な構造は変わっていません。しかし、約1万年前に始まった農耕が私たちの食生活を一変させました。単一作物中心の食事、加工食品の増加、それに伴う栄養バランスの偏りなど、人間の生物学的な設計図と食生活との乖離が、糖尿病、心疾患、肥満などの生活習慣病を急増させる要因を生み出しています。
史上6度目の大量絶滅を回避せよ

従来の慣行農法は、単一栽培によって劣化する生態系機能を化学肥料や農薬で補うアプローチです。これらの化学物質が排出する窒素、リン、炭素の循環はすでに地球の許容量を超えており、多くの科学者が2045年頃に地球の生態系が回復不可能な崩壊を引き起こす可能性があると警告しています1。従来の生産拡大路線ではこの破滅的な転換点を回避するどころか、むしろその到来を加速させてしまう可能性があります。
拡張生態系で持続可能な文明を拓く

シネコカルチャーの基礎となる原理に「拡張生態系」があります。拡張生態系とは、主に植物を活用して、人為的に生物多様性を高めた生態系を指す概念です。このような生態系からは自然状態を超える生態系サービスを取り出せることがわかっており、目的に応じてそれらを活用する方向での人間活動が真に持続可能な社会を実現する鍵になると考えています。
Synecoculture™による持続可能な農業

拡張生態系の農業における活用がSynecoculture(シネコカルチャー)です。環境破壊の最たる要因のひとつである慣行農法を環境構築型の農法へと転換し、環境問題の根本的な解決を目指します。この農法は、人為的に定植した有用植物と自然発生する草木を生態系構築に活用しながら食料を収穫していくのが特徴で、作物の生育に生態系が自己組織化する性質を活用した結果、無耕起・無施肥・無農薬による栽培を実現します。
数年に渡る複数の実証実験からは、自然保護シナリオを上回る環境回復力と従来の慣行農法を上回る生産性・収益性、長期的な健康保護効果をもたらす栄養素の向上が示され、食・環境・健康のトリレンマを乗り越える持続可能な農法として注目を集めています。
Synecocultureの特徴
無耕起・無施肥・無農薬
人為的に定植した植物と自然発生する草木を生態系構築に活用しながら食料を収穫していくのが特徴で、作物の生育に生態系が自己組織化する性質を活用した結果、無耕起・無施肥・無農薬による栽培を実現します。
生産性と環境回復の両立
砂漠化が深刻なアフリカ・ブルキナファソの実証実験では、雑草の種でさえ発芽しなかった荒廃農地が、1年ほどで食用植物に満ちた密林に変貌し、約500㎡から年間国民平均所得の20倍を売り上げました。
おいしく、健康になる
Synecocultureで育てられた作物は、えぐみや苦味が少なく、生で食べられてこなかった野菜も生で食べることができたり、長期的な健康保護効果をもたらす栄養素を多く含むことがわかっています。
気候変動に強い
正常な生態系は、台風や干ばつなど、天候が不安定になるほど多様性が増えていく性質を持っています。多種類の作物がリスクを分散し、一つがダメになっても他が優勢になるため、気候変動を有利に働かせることができます。
栽培する場所を選ばない
混成・密生した多様な植物がそれぞれ異なる環境条件をカバーし、全体として高い適応力を発揮するため、ビルの屋上から砂漠化した地域まで、場所を問わずに作物を育てることができます。
直感による土壌管理
「この土はいい状態だ」と感じる場所は、実際に微生物が豊富で活発な傾向にあることがわかっています。高価な分析機器を使わなくても、経験を積むことにより、直感的な評価で土壌を管理していくことができます。
小規模農家から革新を起こす

世界の農業は、2ヘクタール以下の小規模農家が世界の人口の半分を占め、世界の農地の80%で耕作し、世界の食料の70%を生産しています。このような小規模農家が、従来の慣行農法から環境構築型のSynecocultureへ転換すると、農業と環境負荷のトレードオフを乗り越えるボトムアップの解決策になる可能性があります。
小規模農家にやさしいコスト

Synecocultureは、初期施工における資材、植樹、種苗代、維持のための種苗代以外は基本的に購入する必要がありません。収穫のためのハサミ、苗定植のためのシャベル、草を刈る道具程度で済みます。慣行農法のようにトラクターなどの初期投資や種苗・肥料・農薬などの維持コストがかからないため、小・中規模農家で特に相性が良い農法です。
Synecocultureを始める
Synecocultureを始めるための基礎、実践、応用までを網羅的に学べるマニュアルを開発しています。家庭菜園から商業農家まで幅広い目的に対応しています。
[wpf_case_study_posts heading_text=”Synecoculture実践事例”]
拡張生態系が持つ広範な可能性
拡張生態系の活用は食料生産にとどまりません。ヘルスケアや都市開発などのさまざまな領域に展開することにより、複数のスケールで地球生態系の安定化に寄与するポテンシャルを秘めています。
拡張生態系 × 都市開発

従来の都市緑化は、そのほとんどが景観の美しさに重点を置いた設計であり、生態系サービスとしての恩恵は限定的です。このような緑地を拡張生態系に基づく緑地に転換すると、景観としての機能はもちろん、鳥やハチなどの行き来が活発になり、単独の緑地が大きな生態系ネットワークの一部として働くようになるため、都市全体で生態系サービスの向上を図ることができます。
自然の免疫を都市に導入する
拡張生態系に基づく緑地は、ビルの屋上や都市の空き地のような場所でも効力を発揮することがわかっています。都市全体で生態系の免疫機能が回復すると、ヒートアイランドや豪雨災害、感染症の蔓延に強い環境をつくり上げることができます。
都市に暮らしながら健康になる
拡張生態系に基づく緑地で育った作物は、慣行農法のものに比べて抗酸化成分やビタミンB6が豊富です。食品としての摂取はもちろん、多種多様な植物に囲まれた空間で体を動かすことがストレス軽減や免疫機能の向上につながることもわかっています。
低コストで都市の緑地を維持する
従来の都市における緑地整備は、剪定、肥料、農薬といった維持・管理コストがかかりますが、拡張生態系に基づく緑地は人がすべてをコントロールせず、植物群落が自律的に多様性を育てるため、維持コストが低く、長期的に安定した緑地を維持することができます。
都市を持続可能な社会のショーケースにする
拡張生態系に基づく緑地は、都市の中に旺盛な自然の縮図を組み込み、食・環境・健康のトリレンマを解決する社会インフラとなります。都市に暮らす人々がその恩恵を日常的に体験することで、持続可能なライフスタイルへの理解と参加を促します。
拡張生態系 × ヘルスケア

農業による環境破壊は、見えない脅威として私たちの健康を蝕んでいる要因のひとつです。地球規模の生態系サービスの低下は、生活習慣病や免疫関連疾患の急増を引き起こし、薬物中心の治療は対症療法の域を出ないまま、今日の医療費・社会保障費の増大による財政逼迫という社会問題につながっています。
生活習慣病を予防する
Synecocultureで育った作物は、従来の慣行農法のものに比べて脂肪酸のバランスがよく、抗酸化成分やビタミンB6が豊富であることがわかっています。こうした栄養素は炎症を抑える効果があり、生活習慣病の予防に役立ちます。
免疫関連疾患の予防・改善
土壌微生物の多様性は、食物連鎖を通じて腸内細菌の多様性につながることがわかっています。Synecocultureで育った作物を日常的に摂取することで、認知症やパーキンソン病、アレルギー、喘息など、免疫関連疾患の予防・改善に役立つ可能性があります。
認知機能の改善
生物多様性の高い環境下での運動(散歩や種まき、収穫など)は、認知症やパーキンソン病、脳梗塞後の患者に対する認知機能の改善効果が示されています。作物の摂取を含め、このような活動をリハビリ計画に組み込んだ実験では、従来の薬物治療よりも短期間で大きな改善が見られました。
よくある誤解・FAQ
これまでシネコカルチャーの実践経験がない場合は、家庭菜園程度の小規模で何が可能か探索しながら始めることをお勧めします。その場所で育つ作物がある程度わかってきても、環境や育つ作物種は生態遷移により常に変化して行きますので、変化をモニターするための小規模実験区画を継続することが長期的に有用です。
「その人が何を作りたいかによって、何をどう植えたらいいかは変わる」という前提をまずおさえておきましょう。シネコカルチャーは決められた作物を植えればできるわけではなく、実践する人間と環境によってバラエティに富んだ選択肢がありえます。シネコカルチャーの原理に基づいてその土地・気候・その他の条件も加味して植生戦略を練る中で、具体的な戦略が出てきます。
実践する場所の条件の中で、何を作りたいか、どういう農園にしたいか、管理に割ける時間や使える資金はどれくらいか、などによって自ずととるべき戦略は絞られてきます。
現状、シネコカルチャーの実践によるそうした(生態学的な)問題は特に起きておりません。高度に拡張された生態系は、単一種の異常な大発生という現象を起きづらくさせます。ただし近隣が慣行農地の場合は、(実際にシネコカルチャーの土地が慣行農地に害を与えているかどうかは別として)心理的な抵抗感を与えてしまう可能性がありますのでご注意ください。
確かに、一見そうした農法はどれも似通っているように思えるでしょう。それらと比較した時に言えるシネコカルチャーの明確な特徴は「超多様かつ超有用」を農園において目指すことです。従来の持続可能を目指した農業は農業自体の有用性を高めようとすると結局個々の産物の成長を優先し、生物多様性が低下するというトレードオフの状態を抜けきれていません。一方、シネコカルチャーはそれを根本的に乗り越えて、多様性を高めるほど有用性が高まるという方向へ農園生態系を構築します。その結果として生物多様性は、自然放置された状態よりも高まります。
一見シンプルなようですが、生物多様性と生産性の両立は海陸の大きな循環の中で生物多様性が果たしている役割を科学的に捉えない限り実現は困難で、限られた圃場の中で個人の経験を積み重ねてもなかなかたどり着けません。個人的な経験値の集積の上に成り立っている他の農法と、生態学と農学を横断する科学的な定式化がなされているシネコカルチャーの明らかな違いの一つです。
自然農法の定義にもよりますが、それが「自然の力」など経験に基づく表現をしている場合は、明確に異なります。シネコカルチャーは、農学での生産性向上の原理となる「生理最適」、生態学における生産性の原理である「生態最適」を区別しており、前者の植物単体ではなく後者の植物群集(community)全体の生産性に基づいています。そして、シネコカルチャーにおける管理法も、これらの生理最適・生態最適を逐一認識・区別しながら意思決定していくプロセスであり、自然農法の管理法と常に一致するわけではありません。多くの自然農法が経験的に唱える「自然」の生産性にはこれらの科学的に明確な区別がなく、しばしば混同されて伝わっています。そのため、シネコカルチャーとある種の自然農法のやり方が結果的に部分的に一致していることはありますが、一般的に自然農法に樹木を導入すればシネコカルチャーになるわけではありません。逆に「草原状態を維持する」など別の目的がある場合は、シネコカルチャーであっても木を植えない場合もあり得ます。
シネコカルチャーの実践において、木を植える目的については、シネコカルチャー実践マニュアルの「植樹」の項を参照してください。
シネコカルチャーでは遺伝子組み換え作物を使用しません。その理由としては、遺伝子組み換え作物のもつ危険性だけではなく、植物資源としての遺伝的多様性が生物多様性の喪失や表土の水循環を取り戻すために必要十分でない点が挙げられます。詳しくは出版されている論文をご覧ください。