2. 各論

2-1. 初期施工

2-1-1. 畝づくり

幅1~1.5m ほどの畝を最初に作る、土は耕さずただ畝の形に 盛るだけで良い。 長い根菜を作りたい場合は深くまで耕したほうが形は良くなるが、必要条件ではない。 畝の幅は両側から収穫できる最大の大きさとして設定されているので、管理者の体格に応じて適宜調整する。 収穫に高枝ばさみなどの道具を用いる場合は、管理しやすい幅に広げても良い。

畝を作る目的は、例えば以下のようなものがある。

  • 作物種毎に異なる日照条件の変化づくり
  • 作物種の成長高の違いによる農地の立体的活用
  • 作付け面積の増加
  • 水はけの向上
  • 土壌の練炭構造の形成促進 (2-2-3. 草管理 参照)
  • 生産面積と通路の区別化
  • 定植・収穫管理の利便化

畝を東西方向に作れば、以下のように作り分けが可能。

  • 南側斜面は日向を好む野菜
  • 北側斜面は日陰を好む野菜にする

畝は必要条件ではないが、利便性は向上する。

家庭菜園では平地のままでも構わず、乾燥するところでは逆に溝を掘って湿気がある場所で栽培するなど、 環境条件に合わせて畝の形は変形してよい。 草管理と収穫にかかる作業コストは考えておく必要がある。

畝の間の通路は、収穫のために人が通れれば良い、作業しやすい幅を選ぶ。 生産面積を増やしたければ通路は狭くする、通路が狭ければ、座ったまま両側の畝の作物に手が届く。 必要であれば通路でも栽培は可能である。根菜類は、踏圧に強く、固く締まった通路でも育つ。

2-1-2. 植樹

畝の中央部に、1.5m ほどの間隔で落葉性の低木果樹や小型のブッシュを形成する植物を植える。 果樹を植える目的は、優先度の高い順に以下の4 点である。

  1. 野菜のための半日陰づくり
  2. 虫や鳥を呼び寄せ、その糞や死骸などによる微量元素の供給、受粉の促進
  3. 落ち葉による腐葉土形成
  4. 果実の収穫

野菜類中心の収穫をする場合、果樹は育っても 2~3m 高に収まるように剪定する。 大きくなる樹は農園周囲に配置するなど管理コストを考慮して配置する。 ただし、成長の早い高木は生態系の構築にとって非常に有益なので、最初に植えておいて環境が整ったら逐次切る方法もある。 また4−5mを超える樹木の梢は小型の鳥類にとって安心して訪れる場所ともなる。 果樹については収穫が目的ではなく、野菜が育ちやすい環境づくりが優先である。 果実の収穫は副産物と考える。

果実中心の収穫をする場合、果樹を多種混生し大きく育てってしまってよい。野菜類は果樹園の下草として補助的に生産できる。 生産性を上げるには、樹上で完熟して落下する果実を回収するネットを設置したり、 ペーストに加工・真空パックして用いるなど、収穫法・活用法に工夫が必要である。

また、シネコカルチャーでは市販の栽培品種に加えて、その地方に自生する野生の果樹、 つる性有用植物などの実生の苗の導入を推奨している。 それまで栽培例がなくても、導入することで育つ果樹を探索することも重要である。 接ぎ木苗は、台木から新芽が出て成長してしまう場合があり、剪定管理が必要になる。

ミントの密生地帯にフェイジョア、タラノキ。放置しても有用植物で優勢するように管理コストを減らした例。

Tip

<野菜はなぜ半日陰でよく育つ?>

一般の常識に反して、無肥料状態では野菜は日向よりも半日陰の方がよく育つ。 これは、野菜の原種がもともと他の植物との混生密生状態で進化し、 樹木の半日陰などに適した光合成効率を進化させてきたことに由来する。

2-1-3. 周囲フェンス

畑の周囲のフェンスでもつる性植物が栽培できる。 また、風の強い地域や時期には、風よけの効果を発揮する。 壁際などは湿気が多いので苗床として利用すると、その地に適応した苗が供給できるので農園全体の生産性が上がる。

Tip

つる性果樹:キウイフルーツ、サルナシ、アケビ、ムベ、ブドウ、マタタビ、パッション フルーツなど
日陰に強い野菜:山菜類、アシタバ、フキ、ミツバ、ミョウガ、ニラ、ラッキョウ、ニンニクなど
日陰に強い樹木:サンショウ、クロモジなど

図 : シネコカルチャー農園の施工

Tip

フェンスはホームセンターなどの安価な資材で設置可能。 特に冬場は風よけにより作物の生産性を上げることができる。 種子の飛散効果にも影響を及ぼす。

シネコカルチャー農園の一例の全景と模式図。(2010年11月、伊勢農園)

2-2. 管理

2-2-1. 種まきの一般論

種まきの量は、プロ農家の場合は計画収量から逆算し、家庭菜園の場合は草管理のしやすさを優先する。 一般的に、野菜マルチ形成が可能な葉野菜や根菜の場合、ホームセンターの小袋の種であれば1㎡当たり1袋程度が目安となるが、 作物種、種の数によっても異なる。 実際に播種する際は混生させるので、1㎡に1袋を蒔くのではなく、例えば4㎡に4種の種4袋を混ぜて蒔く。 複数種を混生し、高い密度で種を蒔く。草より先に野菜で地表を覆いマルチ効果を得る。 作物同士の相性(コンパニオンプランツ)には他の農法にも様々な経験知が存在するが、無耕起、無施肥、無農薬の前提で報告されているものは少ない。 多くは2-3種間の組み合わせに限られている。 多種の混生密生が標準的なシネコカルチャーにおいては前例に囚われること無く、多様な組み合わせを常に試してみることが重要である。

空間的な植え合わせだけでなく、時間的な植物相の変遷も考慮する。

ネギやニラなどの防虫効果の有る種を適宜混ぜることで昆虫相を安定化させる。

作物の育ちやすい環境ができるまでは、キク科野菜やハーブ類など過酷な環境にも適応でき、かつ虫にも強い種から始めると初期にも生産性が確保できる。

ニラ、イタリアンパセリ、アスパラガス などの多年草野菜を初期から入れておくことも、 中長期的な草管理を軽減し、収量に貢献する。

発芽状態及び収穫に応じて適宜追い蒔き、苗の定植、農園内での苗の移植をする。

農園の生産面の一例。大きく成長した野菜だけでも4㎡に 13 種類が認められる。 (2010 年 11 月、旧伊勢農園)

Tip

夏野菜の種や、アブラナ科大型野菜の種は一袋の粒数は少なく、単独では野菜マルチ形成も不可能。

植生交代の利用:例えば、一つの作物種(マメ)が収穫後枯れることで、 下から出てくる別の種(ジャガイモ)のマルチになる。
キク科野菜 :レタス、サラダ菜、サンチュ、シュンギク、ゴボウ、チコリ、キクイモなど

2-2-2. シネコカルチャーにおける植生戦略の年間計画の立て方

植生戦略を立案する際の原則として、生産企図量に応じて、以下項目をあらかじめ決めておき、 「種と苗の量が足りなかった」という失敗をゼロにすることが重要である。

  • 生産作物
  • 生産面積
  • 必要な種と苗の量

種と苗の量が足りているなら、うまく行かなかった場合の原因は、 以下要因のいずれかに帰着することになり、建設的な反省と新たな戦略構築が行える。

  • 植生戦略(植生の配置、遷移の時期)
  • 管理方法
  • 気候条件

種と苗の量がそもそも足りない場合、失敗しても次の戦略に活かせる情報とならないため、無反省に1年棒に振ることになる。

Tip

シネコカルチャーでは、造成初期には慣行農法以上の種苗コストがかかるが、 肥料、農薬、機械のコストはかからないため総合的なコストは安くなる。 種苗にかかる金額だけでなく、総合的なコストを視野に入れて計画することが大切である。

ヨモギと紫キャベツの混生。ヨモギを別の野菜で置き換えることもできるし、ヨモギを使って土壌構造を構築してもよい。

2-2-2-1. 一年性の野菜を中心に生産する場合

伊勢農園での2012年春夏計画の例

各月ごとに、何を主力作物として確実に生産したいかを決める。 主力作物のうち植える場所を決めて、以下のように管理する必要がある

  • グループA : 確実な収量が期待できるもの
  • グループB : 主力作物にするにはまだ実験不足で収量が期待できないが、植える場所を決めて管理する必要があるもの
  • グループC : 下草野菜として適当にばらまいておいてよく、定量的に管理しないもの
  • グループD : その他、単発で実験しているものや特殊例外なもの
グループAの例(括弧内は伊勢農園での過去数年分の経験則)
  • トマト(収量が確実な夏野菜)
  • キュウリ、ジャガイモ、スナップエンドウ(収量が確実な豆系)
  • オクラ、シソ(収量が確実な葉もので背の高いもの)
  • ニラ(収量が安定な多年草)
  • ワケギ(本来は秋冬ものだが、春夏も収穫可能)
  • ネギ、ゴボウ、パセリ、イタリアンパセリ(冬期に収量が確実)
  • シマラッキョウ(通年収穫が可能)
  • ヤマウド(春~初夏にかけて新芽を間引くほど収量が増える)
  • モロヘイヤ(夏場の草に負けず秋まで収穫可能)
  • エンツァイ
グループBの例
  • ナス(収量が確実でない夏野菜)
  • ゴーヤ、サトイモ、サツマイモ、ピーマン、シシトウ、トウガラシ、ズッキーニ、カボチャ、マクワウリ、スイカ
  • ダイズ(枝豆として出荷)
  • アズキ、ササゲ、ラッカセイ(地表を覆うが強い草には負ける)
グループCの例

ニンジン、カブ、ラディッシュ、レタス類、コマツナ、ミズナ、ミブナ、チンゲンサイ

グループDの例
  • コリアンダー(臭いが独特で大量に作っても売り切れない)
  • サフラン、アスパラガス、ルッコラ、ハーブ類

主力商品のAとCを決めたら、企図する収量(宅配野菜を月に何箱出荷したいか)によりAの作付け面積とCの種蒔き量を決める。

ACの作付け管理を実施した場合に余った面積と手間で出来る範囲で、Bの実験をする。 Bの実験は成功すれば収量に加えられるが、失敗しても主力商品が足りなくなることは無い。

3月、9月の葉境期には野菜が不足するリスクがある。 3月9月用に取っておく奥の手の例として、以下の3段階がある。

  1. 上記の生産面積とは別に2ヶ月分の野菜を保持しておける程度の面積で苗を植えて、放任状態で温存しておく場所を作る。 伊勢農園の場合、周囲の草刈りだけした空き地に苗を植えておく場所を用意した。 管理コストをかけないため収量は低くても、3月9月に集中して収穫できるよう温存できていれば良い。 一人で一反だけを集中的に管理するより、放任場所を含めて三反を管理する方が、収量の変動に対応する余裕ができる。
  2. アブラナ科ハイブリッドの漬け物、シマラッキョウの漬け物など、旬に収穫できるとき、 保存食の形にしておき3月9月の収量の足しにする。
  3. フキノトウ、フキノトウの苗、梅の花 など、山菜や苗、生花など食品以外の商品も含めて活用。

Aについては、植生密度を多様化することでリスク分散する。 例えばオクラは密生して植えれば台風などの強風にも強いが、 オクラが枯れる11月の時期に入れ替わりで定植できるものが少ないため、次の植生につなぎにくい。 オクラの密度を低くすれば、間にレタスなどの苗を小さくとも定植しておき、オクラが枯れる時期に植生交代を狙える。 密度によって長所短所が出るので、両方やっておく。 これは、 1-9. 探索法 における環境条件の多様化の具体例である。

Tip

花や種も利用するシネコカルチャー農園では、アブラナ科野菜が容易に交雑し、 ハイブリッド種を形成する。 アブラナ科のハイブリッドは野菜の名前がないためそのままでは一般の市場では売りにくいが、 風味がよく収量も高い傾向があるため、加工食品の材料として重宝する。 レストランの料理に使う素材としても向いている。

アブラナ科のハイブリッドは、風味が良く生産性も高いため、シネコカルチャーでは積極的に活用できる産物の一つである。

2-2-2-2. 果樹と多年草を中心に低コストで野菜も混生する場合

温帯̶亜熱帯の草勢が強い場所で、耕作放棄地が余っていて活用したい場合などは、面積当たりの生産性より管理コストの削減が優先事項になる。

そのための戦略として、管理出荷が頻繁に必要な一年性の野菜ではなく、放置しても生き残る果樹を中心とし、自然発生する多年草が作る土壌環境を活用して野菜を混生させる方法がある。 一年草の土壌構造は自然に形成される範囲で副次的に利用する。

Tip

慣行農法が決まった手順と労力をかけて定期的に管理しなければならないのに対し、シネコカルチャーは毎日間引き収穫して生産性が高い状態から、ほぼ放置して時々草刈りや収穫を行うだけのコストがかからない状態の間を無数にデザインできる。 各人の目的と予算に応じて、生産性とコストをどのレベルに設定するかを決め、それに適した植生を実現することで、慣行農法が続けられない土地でもシネコカルチャーを導入できる可能性がある。

伊勢農園・大磯農園での2014-2015年春夏計画の例
  • グループE : 草や荒れ地に強い里山系の果樹
  • グループF : 草が茂っていても種から発芽し成長する作物
  • グループG : 種からの成長は難しいが、苗の定植で定着するもの
  • グループH : いったん草を刈り、表土を部分的に剥がないと種から発芽定着しないもの

里山系の果樹 E の配置を先に決めて多めに植えておき、野菜は F を中心に投資し、 草管理や生産の必要性に応じて G、H を導入する。

グループEの例
  • カキ:栽培品種と自生のマメガキ
  • ビワ:栽培品種と自生のヤマビワ
  • 柑橘類:甘夏、ミカン、カボス、レモンなど
  • 梅・桜類:ウメ、南高梅、ユスラウメ、プラム(スモモ)、サクラ、リンゴ(2品種以上で結果しやすい)、カリンなど
  • イチジク:西洋系とニホンイチジク、
  • 自生のイヌビワ、グミ:ダイオウグミ、自生のアキグミなど
  • ベリー系の木:ブルーベリー、ジュンベリー
  • 自生のシャシャンボなど木の実:クリ、自生のシバグリ、クルミ、ハシバミなど
  • その他:フェイジョア、ユーカリなど
グループF の例
  • セリ科 : ニンジン、パセリ、イタリアンパセリ
  • キク科 : レタス(苦味の強い原種)、チコリ(アレロパシーが強く草に負けない多年草)、 キクイモ(群落となって占拠する)、ゴボウ(硬い地面でも生育)
  • 豆類:ダイズ、インゲンマメ、ラッカセイ、ハッショウマメ(背の高い草にも強い)
  • 芋類:ジャガイモ、サトイモ(湿地を好む)、キクイモ
  • 根菜類:ニンニク(草に埋もれても負けない)、ラッキョウ、アサツキ、ゴボウ、ニンジン
  • 地を這う草マルチ系:イチゴ類、ハーブ類(特にミント類)
  • 日陰で種から優勢するもの:ミツバ、ニラ、サンショウ、ナンテン
グループG の例
  • 草の中でも苗の定着率が高いもの:シソ、トウガラシ、レタス(栽培品種)、 ニラ、トマト、キュウリ、キャベツ、ブロッコリー、アーティチョーク
  • 育って藪となるもの:チャノキ、キイチゴ、インゲンマメ、ハッショウマメ
  • 日陰で苗から優勢するもの:フキ、ニラ、シダ類
グループH の例
  • レタス(栽培品種)、コマツナ など

一番楽なのは F であり、自力で発芽成長し自然繁殖する。表土を剥ぐ必要がないため、生態系構築にもっとも有用である。 これらを優勢させておくことで管理コストを下げてある程度の収量を得ることができ、放置しても草を刈れば復活しやすい。

G は苗を植えることで計画的に管理しやすいが、自然繁殖により優勢させるのは難しく、 大量に定植し続ければ表土の劣化や苗土の化学肥料の影響を招く。 シソやアーティチョークなど、一度植えればその場所で継代していく優れたものもある。

F、G は越年草やそれに準じるものが多い。

H は商業的に品種改良されたものが多く、慣行農法の条件に適した一年性の野菜が多い。 生産量は上がるがその分管理コストや表土の破壊率も増える。

大磯農園の初期植生・伊勢農園での結果としての総合的な生産性に関しては、 [Funabashi 2024] に解析されている。

Tip

芋類と根菜は放置するよりも適度に収穫して撹乱する方が収量増加する。 収穫の際に掘り起こすので、多年草の根も切り制御できる。 ジャガイモは、地上部が出芽したら間引いて一株から一本の茎にすると、芋が肥大することが観察されている。

2-2-2-3. 家庭菜園

市場で販売せずに、自給目的で極めて小さい面積の家庭菜園としてもシネコカルチャーは実践できる。 わずか4㎡ ほどの面積であっても、種類を選ばなければ数人分の野菜を通年自給できた例がある。 家庭菜園において実施のヒントとなるグループ例を示す。

グループ I

種をまくことで混生密生させ、早くからの間引き収穫が見込める野菜

  • レタス、コマツナ、ハツカダイコン、ルッコラなど一年性の葉野菜中心
グループ J

ある程度まとめて植えることで、継続的に生産できる環境が構築されていく野菜

  • アブラナ科野菜 : キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ、カリフラワーなど
  • マメ科野菜 : インゲンマメ、ダイズ(枝豆)、ラッカセイなど
  • セリ科野菜(多年草): パセリ、イタリアンパセリなど
グループ K

隙間に植えたり、他の作物が育ちにくい場所に植えて収量を底上げする根菜

  • ニンジン、ダイコン、ゴボウ、シマラッキョウ、ネギ、ジャガイモ、サトイモなど
グループ L

少量あると便利だが、優占しすぎないように管理が必要なもの

  • ハーブ類、ニンニク、ミョウガ、ヤマウド、アシタバ、アスパラガス、フキ、イチゴ、サンショウ、花卉類など

Tip

根菜はライン状に配列して他の草の侵入をブロックしたり、収穫時に土を掘り起こすことを見越して他の苗を植えたり、 撹乱された後に発芽しやすいレタスやコマツナの種をまくなど、グループ間の特性を生かしてつなげる戦略がある。

2-2-3. 草管理

各野菜と草の特性を知り、草の特性に応じた管理を行う(「草を以て草を制する」)。 基本は野菜が負けない限り一年草は排除せず、群落となって占拠する多年草や大きくなりすぎる一年草のみ排除する。 草刈り機を使う場合は、野菜の高さより上に出た草を刈り取ることで草勢を削いで野菜に有利な環境を作れる。 すでに発芽していたり、野菜の間隔がまばらで一斉草刈りをしにくい場合は、収穫や苗植えのついでに野菜の周りの草を刈る。 多年草は根から抜いた方が良いが、大きければ地上部だけ刈る事をくり返せば地下部も縮小していき、土壌構造形成にも寄与する。 畝以外の通路には多年草が生えていても良い。 一年草は冬に枯れる事で土壌の 練炭構造 を作ってくれる。 多年草は枯れずに土を堅く締めてしまうが、土壌環境や地上生態系を豊かにする効果もある。

<練炭構造とは>

土壌構造の物理的側面を表現したもの。 土の中に一年草の根が張り巡らされた後に枯れることで、練炭のように微細な空腔が張り巡らされかつ堅密化した構造で、通気・通水性に優れ、風や雨などの物理的加重にも強い。

2-2-3-1. 草管理の基本三種

  1. 一斉草刈り:草が優勢してしまい、野菜を保護するよりもいったん植生を全て刈り取ってリセットしたほうが良い場合、 地面の高さで一斉草刈りを行う。 その後の種まき戦略に応じて、地面の高さすれすれで刈る、数センチ残す、10 センチ残すなどバリエーションがあり得る。
  2. 野菜丈の草刈り:野菜と草が競合して草の方が高く伸びてきた場合、野菜の丈で草を刈り取ると、 草のみにダメージを与え野菜を優勢させやすい。
  3. 大きな草の撤去:多年草の群落や大きくなりすぎる一年草の株など、 目立って強く占拠している草はピンポイントで刈る・抜く。

方法1、2 は面に適用でき、広い面積でも一斉に管理するのが楽であるが、野菜の高さが不揃いであったり苗がまばらに残っている場合は効率化しにくい。 方法3は点で処理するため多様な状況に対応できるが、広い面積を処理するのに時間がかかる。

草勢が強い夏場の本州における混生状況の例。秋冬にかけて土壌構築と生産性のバランス戦略が要求される。

2-2-3-2. 計画的に草を茂らせ土を作る場合

夏の間にわざと草を茂らせて、秋から翌年夏までの収穫のために土づくりをする戦略もある。 夏の暑い間の管理コストを考えれば、夏に収量を下げてでも管理コストを減らし、その分秋以降の収量に寄与させるのは現実的である。 夏の間は残っている野菜を収穫したり、背の高いトマトなどをブッシュにして栽培する。完全放置でも良い。 夏の終わりに野菜ごと草刈り機で全て刈り取り、そのうえから種を蒔く。 刈った草がマルチになり、 虫や動物から種をカモフラージュする。秋以降雑草の勢いが衰えるので、野菜が勝るようになる。 夏でなくても草が排除困難なほど茂った場合はいつでもこの「一斉草刈り&再スタート」で野菜が優勢になるまでリセットできる。

周囲生態系の木の実などの産物も、シネコカルチャーでは積極的に活用する。 その地域の生態系を総合的に知り活用することがシネコカルチャー農園をマネージメントする上で本質的に重要である。

2-2-4. 作業のデッドライン

シネコカルチャーでは、生態系を情報の観点から制御することで投資コストと管理コストを減らし収量を得ることを目的とするため、季節ごとに守るべき作業のデッドラインの設定が重要である。 このデッドラインに間に合わなければ、その戦略を諦めて別戦略に切り替えるか、 規模を縮小してでも次の段階に進まないと、植生状況に対して遅れを取ることになる。 各作業のデッドラインはその年の気候条件にもよるが、関東̶近畿地方を中心とした本州(北緯34-36度)の実践経験ではおおむね以下の日付が目安になる。 しかし近年では天候不順も頻発しており、気温や降水量が変化する可能性に基づいて多重かつ多段階の戦略を打つことが重要となる。

  • 3月:春の種まきのタイムリミット。4月からは草の勢いが増す。発芽しても草に負けるので種でなく苗に切り替える。
  • 5月初旬(ゴールデンウィーク):夏の実野菜の苗がホームセンターなどに出揃う。しかし夏野菜の苗はより遅くに定植したほうが定着・成長が良いので、あくまで流通上のデッドライン。
  • 8月第一週:夏の草刈り、根菜系の種まき、秋冬野菜の苗作りの開始。
  • 9月第一週:秋始めの草刈り、秋冬の葉野菜種まき、冬野菜苗作りの開始。
  • 9月10日:秋の葉野菜の種まきのタイムリミット。
  • 9月15日:秋野菜苗の生育良否の判断期限。生育が悪ければ、種苗店やホームセンターなどで苗を入手する準備をする。
  • 9月30日:秋野菜の苗の植え付けを完全に終了する。
  • 10月:発芽の定着状況を見て、冬野菜の種まきを始める。
  • 10月中旬:冬野菜の苗の定植を終える。成長が見込めるのは11月まで。
  • 翌1月:農園の土木工事、防風柵の設置、竹林の伐採、果樹の剪定・移植、多年草の苗の定植 などは1月中に行うと2月以降の種まき収穫管理がスムーズ。

Tip

デッドラインを守らないと、例えば、草の進出を許し、収量が減り、管理コストが上がる。 逆に、そのリスクを見極めてデッドラインを設定する。

ニラ、ルッコラ、シマラッキョウ、ミニトマトなどは雑草並みの強さで野生化する。 スイカやカボチャは生果から種をとっておいて蒔くと良い。 キュウリはゴールデンウィークより遅く、五月末から六月に木のそばに植えると、木に絡んでよく育つ。 トマトは慣行農地にこぼれ種で出てくる細い苗も引き抜いて移植でき、地這えで夏から冬までブッシュにできる。

2-2-5. 夏の草管理と種蒔き、苗の定植

8月9月は、本州(近畿ー地方を基準とする)でのシネコカルチャーにおいて最大の勝負所。 シネコカルチャーは物量でなく情報で生態系をコントロールするため、先手を取るタイミングが何よりも重要。 機を逃すと労力がかかるばかりでなく春までの収量に1年規模で影響する。

ある戦略が当たらなくても次の戦略に切り替えられるように、4重、5重に先を読んで事前に計画し、 作業自体はなるべく軽く短時間で終わらせるのが本義である。

2-2-5-1. 日本・本州における夏場の戦略の例:三つ巴のトレードオフの原理

8-9 月の時期には、草刈りと種蒔き/苗の定植を行うが、以下の三つ巴のトレードオフを考える必要がある。

  • 夏草による土壌の練炭構造の形成
  • 刈り草の分解
  • 種の早まき

以下の三項目がそれぞれ競合するので、各々のタイミングの見極め、何を優先するかの決断が重要になる。

  1. できるだけ草を茂らせる草の根で土壌構造を形成するため、できるだけ一年草を茂らせる必要がある。そのためには草刈りは遅いほうが良いことになる。
  2. できるだけ種を早く発芽させるシネコカルチャーでは、苗の定植後に水が必要な場合や厳しい旱魃以外は水を与えず、外部からの肥料も与えないので、成長が遅く、霜が降りて成長が止まる11月半ばまでに混生密生で収穫できる大きさにする必要がある。 そのため、通常の蒔き時よりも2-3週間早く種まきをする必要がある。早く種を蒔く必要があるため、あまり遅くまで草刈りしないでいるわけには行かない。
  3. できるだけ刈った草を分解させる草刈りした後の草は、8月中で雨が降ればすぐに分解され、9月頭には天然の腐葉土になる。 収量を上げるために草の分解は野菜が出来る場所でさせたほうがよい。 しかし、1と2を優先し、草が分解される前の8月中に蒔いた種を発芽させるには、 刈り草が邪魔になるので通路にどける必要がある。 9月頭に種を蒔く場合には刈り草を畝に放置しても、分解が間に合う可能性がある。

これら3つ巴の判断を簡略化するなら、初めから通路に刈り草をどかしてしまえば3は考慮の対象から抜かせる。 8月初旬の草刈りで畝上に腐葉土を形成するとともに成長の遅い根菜を先行させ、9月頭の草刈りで葉野菜を先行させ、通路で枯れ草マルチ形成し苗のマルチなどに後々利用する。

刈り草を細かく刻んでおくと分解しやすく、間から種を発芽させることもできる。特に乾燥地においては 刈草を細かく切らないと分解しにくい場合がある。

刈り草はできるだけ分解させつつも、種を蒔く際は分解されていない刈り草はどける必要がある。 9月に苗を植える場所は、刈り草でマルチにしておいて分解されてから植えても良いし、分解されなくてもかき分けて植えれば済む。

Tip

夏草→秋草の変わり目に野菜を優勢させるため、 8月末~9月第一週が勝負所。 この時期に夏草を刈れば、小さい苗が秋草に負けることはほとんどない。

2-2-5-2. 草刈りと種と苗の関係の例

夏の草刈りと並行して、秋以降種からの野菜が混生密生し翌春まで間引き収穫できるように、種蒔きと苗の植え付けを計画する。

例を以下に示す。

  • 7月終わりから8月にかけて、ニンジンを初めとする根菜類が蒔きどき。
  • 8月中旬は白菜やブロッコリー、キャベツなどのアブラナ科の種。
  • 9月頭には葉野菜類、だいこんは9月15日まで。
  • 早めに蒔きたいので8月が種の蒔きどき、9月10日がリミット。 向こう1年分の収量に貢献する大型野菜の種蒔きは9月頭までに全て完了させる。
  • 成長が速く、草ごと刈ると枯れてしまう葉野菜(コマツナやハツカダイコンなどの下草としてマルチになる野菜を含む)は、 8月終旬~9月頭にかけての夏草の最終草刈りの勝負所で蒔く。
  • 根菜は、何回も時間差で蒔くほうが間引き収穫に向いているので、8月頭~9月頭までいつでも草刈るたびに蒔ける。
  • ネギ、ニラなど二年目以降しか収穫が期待できないものや、 キャベツやブロッコリーなど苗が小さいままでも翌年収穫を見込めるものもある。 一概に全てが大きく育てば良いわけではなく、成長に時間差が出来るほうが良い。

Tip

<根菜と葉野菜の蒔き分けについて>

8月中に種を早く蒔きたいが、夏草がまだ出てきて埋もれる可能性がある。 そこで成長の遅い根菜(ニンジン、ダイコン、シマラッキョウなど)を8月中の草刈り後にまく。 8月中なら刈り草はすぐ分解するので通路にどける必要は無い。夏草に埋もれても、根菜なら草ごと刈ってもすぐに復活する。

種はその特性に応じて地表に蒔くかスジ蒔きで土をかぶせたほうが良いかが異なる。

ばら蒔きの種は一番簡単だが、発芽しないリスクが上がる。 手間をかけられるなら地表を引っ掻いたほうが発芽は良い。 草を10cm残したほうが鳥に食べられにくい。

スジ蒔きのほうが発芽は良いが手間はかかる。

ばら蒔きとスジ蒔きの長所短所を組み合わせて、面積は狭いがスジ蒔きで発芽率が高く期待できるところと、 バラ蒔きで発芽がまばらでも後から苗で対応するところを戦略的に分けて行う。

種をばら蒔きする場合、草を下から10cmで刈ると残った茎が邪魔して鳥に種を食べられにくくなる。

種に刈り草マルチを被せすぎると、発芽しなかったり、もやし化してしまうので、余分な分を通路にどける必要がある。 どかした草は通路のマルチにしたり、苗を植える場所のマルチにしておく。 苗の周りは刈り草でマルチしたほうが、小さい苗が保護され、草の発生を防げる。

早めに蒔いた種が草に負けそうな場合は、下から20cmの高さで一斉に刈るなどして、草の上部分だけ野菜の丈より上で刈る。

10月に種を蒔く場合は、枯れ草マルチを剥いで蒔く。逆に翌年春の苗の定植まで休ませるなど、 全面積を管理したくない場合は、枯れ草マルチで覆っておく。

シネコカルチャーの本義である野菜の混生密生は種蒔きから行う。 苗は密生に限界があるので、種が発芽するまでのつなぎに使ったり、 アブラナ科など8月中に種を蒔くタイミングの見極めが難しい単発の大きな野菜などに利用する。 8月中の種蒔きは夏草の再生とも競合するので、大きな野菜は苗で後から植える方が夏の間の管理はラク。 日照りの時なども大きな野菜は苗を利用すると便利。 種蒔きと並行して自分で作っておくか、作業のデッドラインを見越して種苗屋で予約しておく。

草刈り種蒔きに関しては状況の見極めが大事で、考えるべき要素によって優先順位が入れ替わるため画一的にマニュアル化できず、ある程度の経験に基づく状況判断が必要になる。 種蒔き後に野菜が密生しすぎている場合は、9月以降一部を苗として空いている場所に移植できる。

Tip

レストラン業務用など8月中に収穫を切らしたくない場合は、つなぎの食料として早くから苗を植える。 8月は休暇にして夏草を茂らせてしまうのが労力的にはラクだが、秋冬に向けた戦略は打っておく必要がある。

自家採種と同じように、勝手に種が飛んでできた大根は生長が著しく早い。

2-2-5-3. 秋以降の植生計画

秋以降に苗を植える場合は、地表のマルチをかき分けて植えればすむ。翌年春のことを考えた植生計画が必要。 例えば、ソラマメやインゲンマメなどは 11 月頃に植えるが、冬の間は背がそんなに大きくならず、 他の冬の葉野菜(ハツカダイコン、チンゲンサイ、ミブナなど)と混生させる事ができる。 これらの冬野菜を冬の間は収穫消費し、春になると豆類が大きくなり全体を覆う植生の交代戦略がある。 春以降には、豆類が枯れてマルチとなり、ジャガイモや他の葉野菜を先行させる戦略につなげることができる。

2-2-5-4. 潅水について

基本的には種には水をやらず自力で発芽させる。発芽時期のみ寒冷紗を用いることは認められる。 苗を植えた後に日照りが来た場合や、種が発芽した後に日照りが来てしまった場合は水をやらないと全滅してしまう。 8月9月の種蒔きの後だけ灌水設備があるとリスクを減らすことが出来る。ただしその後に水をやりすぎると、野菜は水ぶくれしてしまいシネコカルチャーの産物特有の植物本来の味では無くなってしまう。 秋に雨が降らない時には、野菜が小さいまま冬を越すと翌春まで小さいまま経過してしまうため、適宜潅水することは認められる。 灌水設備を使う場合は8月9月から必要な期間だけ設置し後は片付けておく方が良い。

また梅雨・台風・秋雨の時期は、事前に降水予報を調べたり観天望気を行い、予測される降水パターンから、その直前に作業することで効率的に種苗の定植と発芽成長を促進することができる。理想的には、まとまった降水量が得られる半日前から降り始めて数時間ぐらいまでの間に、草刈りと種苗定植をまとめて行うと効率よく、自然のリズムの波に乗るように植生群落と土壌構造の構築が可能である。

Tip

潅水しなくても、種は自ら環境をセンシングし、発芽に適した時期を判断して発芽する。 逆に、人工的に潅水して発芽させてしまうと、成長過程が脆弱になりその後も管理が必要になってしまう。 長い進化の歴史の中で幾多の気候変動を乗り越えてきた植物の自発的な判断と成長に任せることで、環境適応力を上げることが重要である。

2-2-6. 施肥の代替(生産力の回復法)

シネコカルチャーでは、基本的に施肥と言う概念は存在しない。 すべての植物は、その生長に必要な物質を植物自身の光合成による直接的な相互作用、動物相を介した間接的な相互作用を通じて自分自身で調達する。 自然状態の生態系においては、有機物は植物の光合成により生産され、リン、カリウム、微量元素は動物相によって拡散する。 それ以外の人工的な物質移動は、自然状態の生態系にとっては異物であり、崖崩れなどの例外的な局面に相当する。

継続的な収穫により不足する可能性があるものとしてリン、カリウム、微量元素があるが、鳥や昆虫などの動物相による拡散で供給されるよう、低木果樹などの植生を導入している。 薬物や外部からの飼料を使用しなければ、家畜を導入しても良い。

なんらかの理由で外的な手段により土壌の生産性を回復する必要がある場合、、生態系の循環に則して考えるなら、初期の土壌改良の局面において、以下の3つの方法が例として挙げられる。 ただし、シネコカルチャーの「人間が持ち込む事ができるのは種と苗のみである」という原則には違反する。

  1. 海水を 100 倍くらいに薄めて年に一度くらい撒く
  2. 海藻や魚のアラを粉砕して地表に撒く(これは、近代農法によって海洋に流亡した陸地の養分を回収する直接的な方法である)
  3. 近隣の場所で生育した、農薬のかかっていない草や落ち葉(腐葉土)を地表に積む

Tip

自然状態の植物は、その生長に必要な物質の調達は植物自身が行う。 その結果として出現する植物と環境条件の地理的分布は、生態学的ニッチと呼ばれる。 降水量などの環境条件が満たされており、著しく構成種のバランスが崩れていなければ、放置した生態系が砂漠化することは無い。 逆に、施肥や人間の水やりによってできた養殖野菜は、代謝産物も影響を受けて変化しており、 野菜版のメタボリックシンドロームに喩えられる。

これらの施肥の代替法は、進化の過程で出来上がった海と陸の間の物質循環に基づく。 もともと自然循環に存在する経路を短縮しているので、人間が作業するよりも、 頻繁に微生物や虫や鳥に来てもらうのが一番理に適い楽な方法。

整地された宅地から農地への転用など、あまりにも植生や表土の有機物が乏しい場合、初期の土壌改良としてこれらの方法を適用することは許容されるが、シネコカルチャーとして認定されるには、作物の生育に外部から持ち込んだ有機物の影響が完全に消えている必要がある。 シネコカルチャーの基準で自然循環が成立するには、外部投入に依らずに生産性が維持されていることが必要である。

ナスやトウモロコシの市販品種など、肥料を前提に品種改良された野菜(特に夏場の実野菜)は、無施肥の状況では極端に収量が落ちる場合がある。 そのような場合は、シネコカルチャーにこだわらずに、地表に肥料を置く不耕起の有機農法で栽培する手もあるが、シネコカルチャーの範疇からは外れる。

2-2-7. 収穫

混生密生状態で、競争に勝ち大きくなったものから順に間引く。 環境条件が整えば毎日、通年で収穫可能。 土壌の保護と植生維持のために、野菜は根を残して切り取る事が望ましいが、輸送などの関係で日持ちさせたい場合は根をつけたまま収穫する。

2-2-8. 収穫ー苗移植ー追い蒔き の作業セット

収穫した後、野菜の無い空間が出来た場合や、大きな草を抜いて表土が露出したところは、 苗を定植・移植するか種の追い蒔きをして雑草より先に野菜を茂らせる。 苗を農園内で移植できるよう、壁際など日陰で湿り気の多いところを苗床として活用する。苗床に空きができたら種を蒔く。 このように、収穫、苗の移植、種蒔きが一連の並行連続した作業を成す。

下図では、例として作物Aを収穫した後に別のところにある作物Bの苗を移植し、苗のあった場所に作物Cの種を追い蒔きするという 収穫ー苗移植ー追い蒔き の作業セットを模式的に表す。

同様に、作物Bの収穫ー作物Cの苗を移植ー作物Aの追い蒔き、 作物Cの収穫ー作物Aの苗を移植ー作物Bの追い蒔き の作業セットも並行して示されている。

図:収穫ー苗移植ー追い蒔き の時空間的組み合わせ方

Tip

従来の生理学的最適化に基づく農法では、一般に個々の作物の播種、苗の成長、収穫までが 同じ場所で他の作物とは独立に行われる。 それに対し、シネコカルチャーでは、複数の作物の 播種、苗の成長、収穫 が互いに時間的にずれながら、 空間的にはそれぞれの局面で最も適した場所に移動させながら並列して行われる。

実際の作業では、必ずしも収穫ー苗移植ー追い蒔き の作業セットを厳格に適用するものではなく、 状況に応じて苗の定植より直接追い蒔きで対応するなど、状況に応じた判断が重要である。

初期施行の種まき後も、発芽状態に応じて追い蒔きを行う。

2-2-9. 自家採種

野菜のうちいくつかは収穫せずその生を全うさせ、花を咲かせ種子を作るまで放置する。 実際問題、混生密生した野菜を全てとり尽くすのは労力上できなかった場合、残そうと思わなくても種をつける株は残る。 しかし、同じ環境条件でもより大きく育つものなどの優れた形質の株を選択して残すと長期的に有用な品種が得られる。

シネコカルチャー農園で育った苗は植物の代謝状態が変わるためか、市販の化学肥料で育った苗では枯れてしまう厳しい環境に対しても強靭な生命力を発揮し、生育可能な環境が拡張することが確認されている。 植物の適応力の変化に応じて、収穫期間が延長されることがある。

Tip

過酷な環境でのシネコカルチャー農園の新規開拓には、すでにあるシネコカルチャー農園に適応した種子や苗の提供が有効だと予想される。

2-2-10. 畝について

畝が災害などで物理的に破壊されない限り、畝に土盛りをする必要はない。 畝は一年草が作り出す土壌の練炭構造や多年草・樹木の根によって浸食されにくくなる。 山が長年その形を保つのと同じ原理である。もし畝の形が大きく崩れるのであれば草の管理の仕方が間違っている可能性がある。

Tip

本州の台風・大雪により周囲の慣行農地は作物がなぎ倒されて大被害、プレハブやハウスなども風・雪で倒壊する中でも、各地のシネコカルチャー農園では畝も崩れず野菜も倒れないことが経験的に確かめられている。 異常気象時の管理コストの減少は、シネコカルチャーがもたらす調整サービスの経済的価値の一部である。 収量以外にも、コストの減少は農業を生業として成り立たせるための重要な要素である。

レタスと唐辛子の苗を中心とした混生。どちらもシネコカルチャーへの移行局面でも収穫が得られる強い作物である。

2-2-11. 苗戦略

地域の種苗屋やホームセンターで野菜の苗は入手できるが、流通する期間以外にも苗を自家栽培することが可能である。 苗を自家栽培することで、市販の流通期間を超えて収穫可能期間に厚みを持たせることができる。

例えば、トマトの苗は4月から5月にかけてホームセンターに多く出回るが、これら市販の苗の定植で収穫できるのは7月から8月までに集中する。 一方で、トマトの苗自体は自家栽培すれば8月まで育苗可能であるため、8月まで段階的に時期をずらして苗を植えることで、 トマトの収穫時期を 11月頃まで長く引き延ばすことができる。 赤くならない状態でのトマトの利用も加えれば、12月まで収穫期間が延長される場合もある。

シネコカルチャー農園の生産量の効率化を図りたい場合は、生産面積とは別に、小型のビニールハウスや室内などの生理学的な育苗条件を整えられる場所で苗を栽培し、農園での収穫に応じて苗を常時移植する体制を整える。 収穫量を増やして葉境期をなくすには、農園と苗床を常に作物と苗で満員の状態にする。 自然環境の揺らぎによって、作物には出来不出来が生じるが、その揺らぎを吸収できるような苗の供給体制を整えることで生産の安定化と効率化を図ることが出来る。

Tip

苗の栽培・移植には有機物を外部から農園に持ち込まないという無施肥の基準に従う必要が有る。 苗も無施肥で育てることが望ましい。 室内での水耕栽培は、土壌を必要としないため移植の際に有機物の入った土を圃場に持ち込まずに済むので、育苗段階には利用できるが、シネコカルチャー農園内で成長させないと健全な植物組織にならない。 イタリアンパセリなど収穫まで時間のある多年草野菜の苗を作るのに水耕栽培は向いている。 一年草野菜は定植から収穫までの期間が短いため、液肥の影響を受けすぎるリスクがある。

ゴボウは、完全に掘り返さずに収穫の途中で切るとまた同じ場所に生えてくる。 シネコカルチャーのゴボウは味がクリアになり生食できる。